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石田ひかりさんと中江有里さんの「人生を充たす本」

撮影・太田太朗 スタイリング・和田ケイコ(中江さん)、hao(石田さん) ヘア&メイク・丸山智美(中江さん)、横山雷志郎(石田さん) 文・兵藤育子

人間はひとりだけどつながっている

中江 ご家族を大切にされてるひかりちゃんに贈りたい本で思い浮かんだのが、齋藤陽道さんの『よっちぼっち』。ひとりぼっちが4人集まって家族になったという意味の造語で、齋藤さんが撮影した写真が美しいんですよね。

石田 うわぁ、出産直後の奥様の表情とか、瑞々しくてとってもステキ!

中江 文章も家族の何げない日常を題材にしていて。個人的なエッセイなのに、私たちにも普遍的に響くのは、人間ってひとりぼっちだけどつながっているからなんだな、と思えるんです。

石田 私はエッセイが好きなんですよね。読みやすいっていうのもありますが、いろんな人の気持ちとか、暮らしなどを垣間見ることができるから。

中江 『元気じゃないけど、悪くない』もエッセイで、更年期がテーマです。

石田 付箋がいっぱいついてる。

中江 印象が残ったところに付箋を貼る習慣があるんですけど、この本は共感だらけ(笑)。更年期のあるある話もそうだし、調子が悪いときの対処法も楽しそうで。

例えばストレスに対処するためにとる意図的な行動を「ストレスコーピング」というんですが、高めの入浴剤を買うような“しょぼい”コーピングを実践するんです。こうすればいいって押し付けないスタンスも、読んでいて心地よくて。

あと1冊は小説がいいかなと思って、平野啓一郎さんの短編集『富士山』を選びました。ひかりちゃんは東京駅から東海道新幹線に乗るとき、どっちの席に座る人?

石田 絶対に富士山が見える側!

中江 そうだと思って選びました(笑)。

最初の短編は、その話題から始まるんです。あるカップルが浜名湖に旅行することになり、男の人は、富士山が見える側の席が埋まっていたから、より時間のかかるこだま号を予約する。だけど彼女は富士山に全く関心がなくて、遅い新幹線を選ぶ意味がわからない。

その些細な価値観の違いが大きな人生の分岐点になって、びっくりするようなことが起きるんです。

石田 さすが、すごく気になる!……私は読書家の有里ちゃんに何を贈ろうか迷ったんですが、自分の子どもに読み聞かせをしていたときに出合った絵本がいいかなと思って。

『ちいさな島』は、マーガレット・ワイズ・ブラウンがペンネームで発表した作品です。彼女の『おやすみなさいおつきさま』が好きで、この絵本を手に取ったのですが、大人もぐっとくるメッセージが込められているんです。

絵本の読み聞かせは、仕事に復帰するためのリハビリのつもりでもやっていたんですが、私が本気で読むものだから、横で聞いていた母までクスクス笑うんですよね。

中江 この一冊に、いろんな思い出が詰まっているのがいいですね。

石田 絵本は人生で2回出合うものなんだなって、子育てを通して実感しました。

『無人島のふたり』は山本文緒さんが膵臓がんで亡くなる直前まで書いていた日記です。私、山本さんの小説が大好きだったんですよね。

まさかこんなに早く、こういう本を手に取るなんて想像すらしていなかったけど、余命を宣告された日から命がけで書き残していて、最期まで作家であろうとした姿に胸が熱くなります。

中江 私も読みましたが、自分の死後に本が世に出ることを想定して書いている覚悟を感じました。それに反するように文章が柔らかくて、山本さんの小説の世界観と一緒なんですよね。

石田 『巨樹・巨木図鑑』は木のガイドブックなんですが、私はけっこうアウトドア派で、全国の名木を訪ねる旅をいつかしてみたいんです。巨木って人間の何倍もの時間を生きているわけで、それだけでも圧倒されますよね。

私たちはお仕事で地方に行く機会も何かと多いから、有里ちゃんにもぜひ木を巡る旅をしてほしいなって思って。

中江 自分では手に取らないような本でも、お話を聞くとなるほどなって興味が湧きますね。ありがとう。

「絵本は人生で2回出合うものだと実感」(石田さん) 「人間はひとりだけどつながっている」(中江さん)
「絵本は人生で2回出合うものだと実感」(石田さん) 「人間はひとりだけどつながっている」(中江さん)

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