成し遂げた今こそできる決断、これからの時間は家族とともにーー高山泰子さん
撮影・徳永 彩 文・一澤ひらり
元「プレインピープル」エグゼクティブ アドバイザー 髙山泰子さん(70歳)
今年に入って、仕事をリタイアする決断をしたという髙山泰子さん。
「70歳になって今後の身の振り方を考えていた矢先、娘が4人目の子どもを授かったんです。長い間仕事をしてきて、娘のことを充分ケアできなかったという後悔があったし、たいしてアテにはならない母親だけど、娘の役に立ちたいという強い気持ちだけはありました。きっとまだ遅くはない。これからは孫たちの世話をしたいと思って、今年の6月に退職したんです」
洋服屋なのに食料品?物議をかもしたことも
15年前、髙山さんは8歳下の妹とともに、上質なライフスタイルを提案するコンセプトストア「プレインピープル」を創業。衣食住を総合的に扱うショップは当時珍しく、先駆けとなった。
「ファッションだけでなく、用の美をたたえる伝統工芸品とか、安心安全な食品とか、ささやかでも暮らしの情報発信の場となって、何かしら社会貢献ができるお店にしたかったんですね」
その複眼的視点は、幼少期から航空会社に勤める父親の転勤に伴って香港、ロサンゼルス、テヘラン、ローマといった世界各地で暮らし、異文化に触れてきたことが大きいという。もともと音楽関係の仕事をしていた髙山さんだが、30歳過ぎでファッションPRの仕事に就いたのがきっかけとなった。
「55歳でプレインピープルを立ち上げてからは、トータルディレクションを担い、日々使う良質なものを紹介したくて日本各地を回り、窯元や伝統工芸の職人さんを訪ねたり、地元のオーガニックな食材を探して、お店で展示会をやりました。洋服屋なのに食料品?とかって言われましたが、コンセプトは間違っていなかったと思います」
今年、2年がかりで準備した展示会が開催されることになり、退職するのにちょうどいい潮時だと思ったという。
「働こうと思えば働けるけど、いつまで元気でいられるかわからない。体が動かなくなってからリタイアしたら、何もできなくなってしまうでしょ」
とはいえ、長年積み上げたキャリアを手放すことに躊躇はなかったのだろうか。
「正直、辞めたら自分がどう思うのかわからなかった。やっぱり仕事を続けたかったと思うのかなって。でも、リタイアしたら晴ればれとした気持ちになりましたね。辞めなきゃよかった、と思わない自分にも驚きました」
なぜそう思えたのか?と自問したという髙山さんだが、「やりたいことをやってきたから、やりきった感があったんです。それだけ満足してリタイアしたっていうことなのかなって。また私と感性が近い妹が顧問的な立場で残っているので、それも安心ですし。幸せなことですね」
可愛い孫たちに囲まれて、いま最高にハッピー!
息子と2人暮らしの髙山さんの自宅から車で40分ほどのところに、娘のせいらさん宅がある。玄関に3人の子どもたちが「ばぁば、おかえり~!」と飛びついてくる。みんな、ばぁばが大好きなのだ。一番年上の大良(たいら)くんは小学校3年生、真ん中のめいちゃんは1年生、末っ子の彩人(さいと)くんは幼稚園に入園したばかり。
「ばぁば、とっても優しくてお料理上手。ハヤシライスが好き!」(大良くん)
「お泊まりしてくれるし、ダンスや歌をほめてくれてうれしい」(めいちゃん)
「いつも一緒に遊んでくれる。ばぁば、いつも笑ってるんだよー」(彩人くん)
そんな孫たちにまとわりつかれながら、愛おしそうに微笑む髙山さん。
「こんな可愛い盛りの子たちと一緒にいられるのは至福ですね。こちらがエネルギーをもらっているみたいで、前向きになれます。9月に生まれてくる天使のような赤ちゃんのお世話をするのも楽しみ。人生のご褒美のようです」
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