住む場所は自由に決めていいーー料理家・脇雅世さんが憧れの町家住まいで出会った新しい人間関係
住まいを変えるには大きな決断がいる。けれども思い切ってその先に進んでみれば……。料理家・脇雅世さんの生き方に見る、幸せのかたち。
撮影・柳原久子 構成&文・堀越和幸
「近所の人にはそんなストレスを与えたんだと思います。挨拶回りでもいろいろご意見を頂戴して」(加藤さん)
夫婦は話し合った。この状況を打開するには、こっちから積極的に心を開いていくよりほかにない。そのために、「よろしければうちを見に来ませんか、と皆さんをお誘いしました」(脇さん)
完成間近の我が家に何組かの“ご近所さん”がやって来る。そうして一度距離が縮まってしまうと、町内の人は実は驚くほど友好的だ。
「留守の時にポストからはみ出ている郵便を押し込んでくれたり、家の様子をラインで教えてくれたり、ちょっとしたことなんですが、それで私たち夫婦はとても助けられています」
脇さんも加藤さんも年齢は60代の後半だ。歳を重ねるごとに、新しい環境に飛び込みづらくなるものだが……。
「私たちの場合は加藤が50代の時に、大病を患ったのも大きかった。人生、誰でも限られてますし。加藤とは、この家は一生ものの価値のある買い物をしたよね、とよく話しています」
京都の生活を開始した脇さんは、仕事の上でも楽しみが増えた。それは地元ならではの旬の食材を使ってフレンチのレシピを作ることだ。
「春はタケノコ、夏は鱧を扱いました。通っている小料理店の板前さんの話などを参考にしながら考えているんですが、これが実に楽しいんです」
『クロワッサン』1126号より
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