野村萬斎さん「歴史に学び、今の己を生かすことは大事だと思います。」【今会いたい男】
撮影・天日恵美子 スタイリング・中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク・奥山信次(B.SUN) 文・黒瀬朋子
コロナ禍の窮地の日本を救うべく、徳川家康や織田信長、豊臣秀吉、坂本龍馬ら歴史上の偉人がAIによって蘇り、最強の内閣を作るという奇想天外な映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』。野村萬斎さんは、総理大臣になる家康を演じている。
「信長や秀吉は唯我独尊で突っ走るところがあり、すぐに戦いを始めて民が迷惑をしてきた。家康はそういう歴史も見てきた上で、安寧の世の実現にどうすればいいか考えてきた人ですよね」
物事を静観、俯瞰視し、全体にとっての最善策を探る姿勢は自身の思考性にも重なるところがあったという。
「父の野村万作は先手必勝なところがありますが、私の性格は反対。ある程度地ならしされたところで、問題を炙り出し正論を導きたいタイプなんです。結論を急がず、ファジーにしておきたい。やってみなければわからないというところもありますしね」
現代は歴史の連なる線上にあり、今日(こんにち)抱える問題を改めて突く、本作のメッセージにはとても共感したそう。
「先人たちが考えてきたことは一朝一夕ではなし得ない、確かなものがあるはずなので、失敗を繰り返さないためにも歴史に学ぶというのは大事なことだと思います。それと同時に、今を生きる己をどう生かすか、ですよね」
〝アップデート〟という言葉が好きだという萬斎さん。世田谷パブリックシアターの芸術監督ほか、数々の場面でリーダーを務めてきたが、リーダーも時代に合わせて、適任者に変えていくほうが理想ではないかと語る。
「時代もニーズも変わっていきますから、変化に柔軟に対応することは必要なのではないかと思います」
ドラマ『アンチヒーロー』でのインパクトある検事正役が記憶に新しいが、シェイクスピアから現代劇、エンタメ作品まで、振り幅広く出演している理由を最後に尋ねてみた。
「人間を描くという意味では、狂言も現代劇もシェイクスピアも変わらないと思っています。ただ、映像作品は、照明やカメラワーク、音楽などにより、自分の想像を超えるものが仕上がってくるので、それが楽しくて出演していますね。今作のように、様々な役者さんたちと剣を交わしながら、一緒に作る作業も刺激的で面白いです」
『クロワッサン』1122号より