心地よさは室温のコントロールから。寒さ&暑さ知らずの対策12。
健康への影響も見逃せません。
イラストレーション・小林マキ 文・小沢緑子
冬は暖房をつけているのに足元が冷える、夏はエアコンの効きが悪く電気代が心配になるなど、家の中の暑さ寒さや温度ムラが気になる場合は、『家の断熱』不足が原因と考えられます」と、多くの住宅リフォームに携わっている一級建築士の尾間紫さん。
ちなみに冬は暖房時の熱が家の開口部から流出する割合が58%(下イラスト)、夏の冷房時(昼)は開口部から外の熱が侵入する割合が73%との調査結果(※1)があるという。
家の断熱性が低いと外気温の影響を受けやすい。
「家の断熱性は、簡単に言うと“ポットの保温力”のようなもので、断熱性が低い家は外気温の影響を受けやすくなります。一方、断熱性が高まるように改善すると、外からの寒さや暑さが遮られて室内の温度を均一に快適に保ちやすい。夏の場合は、さらに太陽の熱を遮る『遮熱』も行うことでエアコンが効きやすくなります。小さなエネルギーで冬は暖かく、夏は涼しくでき、その分、光熱費がかかりにくい“エコな家”にもなるのです」
その家の断熱性能の重要性が今、改めて注目されているという。
「そろそろ老後の住まいを考え始める “リフォーム適齢期”の50代、60代が、ちょうど住宅を取得した20〜30年前は断熱性能が不充分な家が多いこと。また、コロナ禍に家で過ごす時間が増えて、室内の寒さ、暑さを実感したことも背景にあると思います。さらに近年、『家の中の断熱性能が低いと健康に影響がある』ことが徐々にわかってきました」
たとえば、WHOでは寒さによる健康影響から居住者を守るための室内温度として18度以上を勧告。また、室温が低い家に住む人ほど起床時に血圧が高くなる傾向がある、ヒートショックなど冬場の入浴中の事故のリスクが高くなる傾向がある(※2)、などの調査や研究結果が報告されている。
「地球温暖化対策の一環として、国が住宅のエコリフォームを推進していて、昨年、今年と、窓を中心とした『住まいの断熱性能向上』のための補助金が充実。対象となる製品や施工業者を調べて活用できればお得にリフォームすることが可能。今が家の断熱性能を高めるリフォームをするよいタイミングといえます」
今回、家の中の寒さ、暑さを改善するための本格リフォームから、すぐに実践できる小さな工夫まで教えてもらったので、参考にしながら対策を万全にしていきたい。
※2 (一財)ベターリビング発行「健康に暮らすためのあたたか住まいガイド」より。
[家全体]快適さを求めるならドアや床にも工夫を。
冬の暖房時の熱は床や屋根からも流出するため(上イラスト参照)、断熱性能が低い家の場合、床下や天井に断熱材を入れるリフォームも一案。
「断熱性能向上リフォームはお得な補助金の対象です。さらに今年は玄関ドアもより有利な補助金の対象となっています」。
ほかにもエアコンとサーキュレーターの併用、冬と夏にラグやクッションカバーの素材を“衣替え”するだけでも効果は感じられるのでぜひ試してみて。
対策1|古い玄関ドアを断熱タイプに思い切って交換。
「築年数の古い家の場合、玄関や廊下がとても寒いという声は多く、その大きな原因となっているのが断熱性の低いアルミの玄関ドアです。断熱性の高い玄関ドアに交換すると室内の冷え込みを軽減でき、玄関ドアの結露も防ぎやすくなります」
思い切れば、利点はほかにもある。
「最新の玄関ドアは電子錠付きが多く、防犯性が高まったり、〝家の顔〟であるドアを交換することで玄関の雰囲気がグレードアップするメリットも」
対策2|冬と夏には、インテリアの素材を衣替えしてみる。
「インテリアの衣替えはプチリフォーム並みの効果が。冬はフローリングにカーペットやラグを敷く、さらにその下にホームセンターなどで手に入る遮熱シートを敷くと暖かさが増します」
肌に触れるソファやクッションのカバー素材を替えるのも効果的。
「冬はふわふわとした空気を含んだ温もりのある素材で暖色系に、夏はサラリとした素材で涼しげな寒色系にするとよいでしょう。体感温度や心地よさも変わってくると思います」
対策3|床下、天井に断熱材を入れて根本的に解消。
床下や天井の断熱が不充分だと家の中が寒かったり、暑かったりすることが多く、その際は断熱材を入れるリフォームが効果を発揮するという。
「床下に断熱材を入れれば家の中が暖かくなりますし、足元の寒さも和らぎます。また、夏に1階より2階のほうが暑くなりがちな家の場合、夏の強い直射日光で熱くなった屋根から放射される熱がじわじわと室内に伝わってくることが一因のため、天井や屋根裏に断熱材を入れるとやはり効果が高い。今は床や天井の断熱リフォームも1日程度で工事が終わるので、住みながらでも施工可能。ただ、確かな技術が必要なリフォームのため、経験豊富な専門家や工務店に相談し依頼することをおすすめします」
マンションの場合、外壁に面した壁面に断熱材を貼る対策があるという。
「壁から発散される熱や冷気を遮ってくれます。壁紙を替えるときに一緒にリフォームするといいですね」
対策4|シーリングファン、 サーキュレーターの併用は効果大。
「天井に取り付けるシーリングファンは、冷暖房効率を高めるのに役立ちます。夏に涼しいだけでなく、冬は天井付近にたまった暖気を優しく撹拌」
エアコンとサーキュレーターの併用は、手軽で効果も大きい。
「エアコンの暖気や冷気をサーキュレーターがまんべんなく循環させて室内の温度ムラを解消します。するとエアコンの温度設定をむやみに上げたり下げたりしなくても冷暖房効果が上がるので、電気代の節約にもなります」
[窓]窓際が寒い家は性能が低い。窓周りの改修や工夫が必要。
前述したように、家の中で一番熱の流出や流入割合が高いのが開口部。
「特に断熱性が低い家の弱点が『窓』。隙間風と勘違いされがちですが、たとえば冬に窓際で冷気の流れを感じたら、それは暖房で暖められた空気が冷えきった窓ガラスに触れて冷気になり、対流が起きて床に沿って室内へ広がる“コールドドラフト現象”のせい。暖房を強くしても寒いままで光熱費もかさみます。まずは窓の断熱性能を上げる改善が必要です」
対策1|人気上昇中! ハニカム構造の断熱スクリーン。
「〝空気は非常に優秀な断熱材〟です。今、窓の断熱性を高める方法で人気なのが、窓の内側に取り付ける、ハニカム(蜂の巣)構造の断熱スクリーン。生地の内部にできた空気層が〝断熱の壁〟となり、冬の外からの冷気を防ぎながら暖房の暖かさを保ちます」
また、このスクリーンには障子の和紙に似た生地タイプがあり、それを選べば「光を柔らかく取り込む効果も」。
対策2|明るさも保てる機能性の高いレースカーテンを。
年々暑さが厳しくなる夏は、窓周りにどんな対策を?
「夏の暑さの主な原因は、太陽の直射日光が運んでくる日射熱。これを遮れば室内の温度上昇を防ぎやすくなります。ただ、遮光カーテンは光は遮りますが、家の中が真っ暗に。遮熱機能をもつレースカーテンなら日射熱だけを遮るので明るいまま室内は快適に。UVカット機能をもつ生地もあります」
レースカーテンを取り替えるだけなら気軽。すぐに実践できる。
対策3|今あるカーテンをリターン仕様にして冷気の侵入を防ぐ。
「冬は窓のカーテンをきっちり閉めるだけでも、内側に空気層ができるので断熱効果が高まります。さらにカーテンの幅に余裕があれば、窓とカーテン側面の間の隙間をコの字形にしっかり巻き込むように覆う〝リターン仕様〟にする方法も。横からの冷気の侵入が防げるので、部屋の中の暖かさを保ちやすくなります」
リターン仕様にできる専用キャップがあるので活用すると簡単。
対策4|窓下に専用のパネル式ヒーターを置いて暖める。
「雪が多く降る地域で見かけたことがある人も多いと思いますが、冬の窓際で起こるコールドドラフト現象を防ぐために、窓の下にパネル式ヒーターや電気式ヒーターを置くアイデアも効果が高い。窓ガラスで冷やされて下のほうへと流れてくる冷気を、窓際で暖めて食い止めてくれます」
ただ、カーテンが触れて火がつく可能性のある暖房器具は使わないこと。
「窓下専用タイプを選びましょう」
対策5|機能もいろいろ! ガラスフィルムを窓に貼る。
夏の日差しを遮るため、窓に機能性ガラスフィルムを貼るのもいい方法。
「窓フィルムはUVカット率が高く、災害時などに割れたガラスの飛散を防ぐ基本機能のほか、最近では遮熱タイプや、デザイン性が高く窓をおしゃれに見せてくれるタイプなど、種類豊富」
貼るときは「ガラスの種類、サイズ、方角などの条件によりますが、温度差で生じる熱割れを回避するためにも専門業者に依頼するのがおすすめ。仕上がりもきれいです」。
対策6|マンションでも可能、 内窓を取り付けて快適な室温を維持。
「今年、国が推進している窓の断熱リフォームで補助金の対象となるのが、今ある窓の内側にもう1セット、断熱性の高い樹脂製などの窓枠とガラスを取り付ける『内窓』。工事は1カ所1〜2時間くらいで済み、窓と窓の間に空気層ができるために結露を防ぎやすくなったり、防音効果が得られるなど、メリットがたくさん」
内窓の取り付けは窓の内側で行う改修なので、マンションでも工事がしやすいのもメリット。
対策7|断熱性の高い窓枠とガラスにまるごと交換する。
「今ある窓を交換する『外窓交換』も補助金の対象です。カバー工法という、窓を外し、既存枠の上に樹脂製など断熱性の高い窓枠とガラスを新たに取り付ける方法があり、これなら外壁を壊すことなく1カ所半日ほどで工事が終わるので人気です」
下はサーモグラフィカメラによる試験結果。断熱性の低い窓(上)は外の寒さの影響を受けやすいが、断熱性の高い窓(下)に交換すると、室内が冷えにくく暖かく保てることがわかる。
対策8|オーニングや緑のカーテンで直射日光を遮る。
「夏の暑さ対策は、窓の外からの強い直射日光を遮るのが効果的なので、日除けの設置もおすすめ。窓がベランダやウッドデッキに面していたら、熱を蓄えやすい外のコンクリートや地面まで覆うことができる、ロールスクリーン型のオーニング(外壁から張り出した開閉式の布製の庇)を取り付けると、見栄えもよくベランダ周りがおしゃれな雰囲気に。使わないときはくるくると巻き取って収納できるのも便利です」
昔ながらの暮らしの知恵、窓の外でヘチマやゴーヤーなど、つる性の植物を育てて日除けにする〝緑のカーテン〟も室内の温度を抑えることができる。
「植物の葉には水分が蒸発するときに周りから熱を奪う蒸散作用があるので、窓から室内に吹き込んでくる風が涼しく感じられるよさもあります」
『クロワッサン』1112号より
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