無駄なものを出さない、薬膳・発酵料理家 山田奈美さんの自然に寄り添う暮らし。
そんな暮らしを送る山田奈美さんに話を聞きました。
撮影・杉能信介 文・長谷川未緒
似合わない服や、汚れが目立つものは草木染め。
何でもぬか漬けにして、捨てるところなし。
「今どきの言葉でいえば、SDGsでしょうか。環境にやさしい、無駄のない暮らしが、結果的に節約につながっています」と語るのは、薬膳料理家の山田奈美さんだ。神奈川県葉山町で築100年ほどの古民家に夫と息子の3人暮らし。エアコンはないが、夏は北側の山から涼しい風が降りてくるから、過ごしやすいという。
「冬は寒いので、薪ストーブのあるキッチンに、みんな集まってきます」
掃除は箒で、電子レンジは使わず、ラップフィルムやキッチンペーパーの代わりにさらしを愛用。割れた器は金継ぎし、穴のあいたセーターはダーニングで補修して使い続けている。
近所の人たちと共同で田んぼを耕し、近くの畑では野菜を栽培。メスのにわとりを育てて卵を採り、ニホンミツバチを飼って養蜂も。ものを大切にする、自給自足に近い暮らしは、清々しく、余分なお金も使わなくてすむそう。
手にしたあぶく銭が消えたことでお金に対する覚悟が決まった。
今でこそお金のことはあまり意識せずに生きているという山田さんだが、じつはお金に翻弄された過去があった。
「かつて雑誌の編集者をしていた頃、お金について取材をし、FX投資に手を出したんです。おもしろいように増えていきましたが、リーマンショックが起きてしまって……。貯蓄をはたき、保険を解約して、生活を切り詰めることになりました。あの時、あぶく銭はいらないから、これからは堅実に働いて、地に足のついたお金の持ち方、使い方をしたいと思ったんです」
子どもの学費や老後資金などの備えは細かく考えていないが、やりたいことをやり自分の道を追求していけば、必要なお金はついてくると考えている。
「老後はもっと田舎に越すなど、その時のスタイルに合わせて気軽に暮らし替えをすればいいかな、と。食べものに困っても、種ひとつあれば増やせる、という自信がついたのも大きい。贅沢せず、近所の人と助け合いながら自分たちの手で暮らしを作っていければ、困ることはないと思っています」
オレンジ発酵洗剤で、汚れをやさしく落とす。
『クロワッサン』1096号より