ADHDの収納アドバイザーが実践する、片づけられない自分との向き合い方。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸
“努力や気持ちだけでは 片づけられないことも。”
「皆は片づけられるのに、できない私はだめな人間。昔はそう思い詰めていました。今、私に片づけを依頼してくださる方々の多くも、同じように深刻に悩んでいます」
すっきり整った部屋でそう話すのは、ADHD(注意欠如・多動症)であることを公にしながら整理収納アドバイザーとして活躍する西原三葉さん。片づけられないことに苦しんだ経験を経て、同じ悩みを持つ人々に寄り添いながら片づけをサポートしている。
西原さん曰く、ADHDタイプの人が片づけられないのは、集中力が続かない、順序立てて行動することが苦手、嫌いなことは先延ばしにしてしまうといった特性が原因のことが多い(「ADHDタイプの主な特性」参照)。しかも過去に失敗経験が多いため自尊心が低く、片づけに関しても自信や気力を失っているのだという。
ADHDタイプの主な特性
【不注意】
●部屋の片づけができない
●忘れ物や落とし物が多い
●課題を最後までやりきれない
●並行していくつものことができない
●うっかりミスが多い
【多動性】
●自分のことばかりをしゃべる
●落ち着きがない
●気持ちが先走る
●体の一部を動かす
【衝動性】
●突発的に相手を傷つけることを言ってしまう
●内緒の話を、次の瞬間、ほかの人に言ってしまう
●思いついたことをすぐに言動に移す
●衝動買いをする
●自己抑制が苦手
(「ADHDタイプの片付け講座」西原三葉さんの講座資料より抜粋)
「ADHDの特性があると、努力や気合だけでは片づきません。さらに一般的な片づけノウハウが実行できず、悩んでしまうのです。『ズボラさんでもできる片づけ』といった内容も特性に合っていないと行えず、『自分はこれすらできないんだ』とますます傷ついてしまうケースもあります」
幼い頃から忘れ物やミスが多く、片づけも苦手だった西原さん。のちに離婚することになる夫と結婚し、3人の子どもが生まれるが、家は毎日散らかり、日々探し物などでバタバタしていた。
「食卓の上は常にものだらけ。食事の際はそれらを押しやってなんとかスペースを空け、家族5人で肩を寄せ合って食事をしていました。払込票をなくしてしまって電気代が支払えず、電気を止められたことや、携帯料金の払込票も何度もなくした挙句、ブラックリストに載ってしまったこともあります」
10数年前、40歳でADHDだと診断されるまでは、片づかないのは努力不足だと自分を責め、つらい日々を送っていた。その後、ADHDの当事者会に参加し、認知行動療法を受けることで、自分の特性に合った片づけの方法を学び、実践するようになったという。
「片づいた部屋の写真を当事者会の仲間に送って褒めてもらい、励ましてもらいながら1カ月間、部屋が整頓された状態をキープできたんです。人生で初めてのことでした。私にとっては大きな自信になりましたね。部屋が片づくと探し物をすることもなくなり、快適に暮らせることも実感しました」
散らかっても、自分のペースで復活。
[ テーブル ]
[ キッチン ]
ADHDタイプは集中力が続きにくいため、範囲や時間を決めて少しずつ取り組む。
見えないものを認識しにくいため、ラベリングなどをして可視化する。
自分の頑張りを認められないため、家族や仲間に褒めてもらう。
特性に合わせた工夫をすれば、片づけることは可能だと西原さんは言う。何より大事なのは、モデルルームのような部屋を目指すのではなく、自分の暮らしや性格に合った片づけをすることだ。
「片づけの目的は、探し物を少なくすること、そして今よりも生活しやすくすること。それさえ満たせば、見た目が美しくなくても、ある程度ものが分類されていればいいんです。片づけを継続していく上でも、無理をしないことが大切なのだと思います」
現在は子どもたちも巣立ち、3匹の猫と一緒に暮らす西原さん。毎朝15分だけ片づける、洗濯物をハンガーのままクローゼットにしまえるようにする、仲間と写真を送り合って励まし合うなど、工夫しながら片づけを続けている。
「今も片づけは嫌いだし、散らかってしまうこともあります。でも、以前のように手のつけられない状態になることは少なくなりました。一番大きいのは、片づけられない自分を責めなくなったこと。できない日があっても『今日は仕方ないか』と許せるようになり、生きやすくなったと感じています」
●実は多い、片づけられずに悩む人々。
『クロワッサン』1075号より