好きなことを仕事にして第2の人生を楽しく生きる、すこやかな事例6組。
シニアからの理想の働き方、一緒に考えましょう。
撮影・黒川ひろみ(中嶌さん) イラストレーション・佐々木一澄 構成と文・小沢緑子
case1【母娘で働く】母のキャリアを活かし、 親子で念願の店をオープン。
母・中嶌君子(なかじま・きみこ)さん 71歳
洋裁アドバイザー
娘・中嶌有希(なかじま・ゆき)さん 50歳
「ミシンカフェ&ラウンジnico」オーナー
<月収入 約4〜5万円>
中嶌有希さんが、母の君子さんを洋裁アドバイザーに迎え、ミシンで洋裁が楽しめる店『ミシンカフェ&ラウンジnico』を起業したのは、2011年。
「母は洋裁歴57年。母に洋裁を教わりながら、いつかミシンのある店が開けたらいいね、と昔から話していたんです。東北の大震災をきっかけに早く実現しなければ、と行動に移しました」(有希さん)。
君子さんは突然のことに驚いたが、応援することに決めた。その4年後、勤務していたミシンメーカーを定年退職した君子さんが本格的に加わって以来、ふたりで店を切り盛りしている。
母娘で仕事をすることについて母・君子さんは、「私は14歳からミシンを始め、長年培った技術がありますが、彼女には私にはないセンスや生徒さんにわかりやすく教えられる才能がある。うまく噛み合っていますね」。
それを受けて有希さんは、「家族なのでたまにけんかもしますが(笑)、一緒に働くのは楽しい。母は引き出しも豊富で、まだまだいろいろ教えてほしいと思っています」。
●月収入は母・君子さんの場合。週に3〜4回、教室開催時にアドバイザーとして技術指導を行っている。
case2【資格を取得】72歳で一念発起。 保育園で働くグランドシッター。
大矢爽治(おおや・そうじ)さん 75歳
保育園でのグランドシッター
<月収入 約5万円>
前職は公務員で、定年退職後は10年ほどボランティア活動をしていた大矢爽治さん。3年前、テレビ番組で、シニア世代が保育園で保育士の補助や用務を行える新資格・グランドシッターがあることを知り、これはいいアイデアと、72歳で講座を受講し資格を取得。
保育園への就職活動は自治体によっては年齢制限もあったが、逆にこだわらない自治体もあり、実際に保育園から打診も。「結局、自宅近くの保育園に決まりましたが、資格取得の認定証が役立ちました。子育て経験がなくてもひと通りの保育の知識を得たことが証明できますので」。
実は大矢さんは50代の頃は定年後に仕事をするとは思っていなかったというが、「今はゆるゆるとした働き方で現役世代の助けになり、自分も収入を得て世の中の仕組みとうまくつながれるのはいいものだなと感じています」。
●保育園で週3回各4時間、園内や園庭の整備や行事時の設置などの用務を行う。
case3【キャリアに直結】人事部ならではの経験が活き、やりがいが何倍にも。
Aさん 58歳
大学の学生相談室
相談員
<月収入 約25万円>
企業の総務部で11年間人事採用を担当し、51歳のときに早期退職したAさん。社員との面談、社員間の問題解決の経験など、人事部ならではの対人関係の強みを活かし、大学の学生相談室に再就職。
「職務内容の多くは校内でトラブルに遭った学生への対応や問題解決で、前職の経験を活かすことができています。大学職員の仕事は学生によい思い出を残して卒業してもらうことが目的なので、純粋にやりがいがありますし、それに何より学生がかわいい。卒業式の日に挨拶に来てくれたり、うれしいこともありました」。
振り返ると早期退職の決断が急だったため、少し反省点があるというが、「第2の人生の仕事を見つけるためには、在職中から今までの仕事でやってきたことと、次に自分を売り出すために使えるものを整理したり、ブラッシュアップさせておくことがとても大事だと思います」。
●基本は月曜〜金曜の一日8時間の勤務だが、残業もあり、残業代は上記の月収入とは別。
case4【趣味が役立つ】さまざまなハンドメイドのワークショップを開催。
小林俊枝(こばやし・としえ)さん 66歳
主婦
<月収入 約3〜5万円>
23歳で社内結婚して以来、専業主婦として暮らす小林俊枝さん。
「学生時代から手芸やフラワーアレンジメントが趣味で、3人の子育てをしながら、いつか活かせればと、アートフラワー、ポーセラーツ、カルトナージュなどハンドメイドの稽古をいろいろ続け資格も取得しました」。
その趣味が高じて30代、40代の頃はママ友と年1回、モデルハウスを貸し切り、手作り作品のバザーも開催。それが縁となり公民館や、さらに10年前からカフェでリースや子ども用グッズなどのワークショップを開くように。
「途中、義母の介護があり、できる範囲内でしたが、忙しい合間に参加してくれる方たちに『今日は楽しかった』と言われるとうれしくて。20代から続けてきた小さな歩みが実を結び、今もワークショップが開けることは幸せだと思っています」
●ワークショップは月1〜2回。内容は参加者の希望に応じて臨機応変に対応している。
case5【ゆるく起業】自分の居場所+若い人たちが気軽に集まれる場に、と起業。
柴田久美子(しばた・くみこ)さん 57歳
国産小麦のパン教室「ぶれまい」オーナー講師
<月収入 約20万円>
55歳のときに大手日用品メーカーを早期定年退職し、パン教室を起業した柴田久美子さん。40代初めは海外出張などで家を空けることが多く、一段落した時期に家での食事をより大切にしようと料理教室に通い始めたのが契機に。
「通った料理サロンが素敵で。会社員人生を終えたら私も若い人が気軽に集まれる場を持ちたいと思ったのが始まりでした」。
その後、パンの魅力にはまり、尊敬するシェフが開く教室に通い詰め、早期退職を決意して自分の教室を開いた。
「今は1カ月のうち10日はレッスン、10日はパンの勉強、10日は家事や夫との時間に。月収入から教室の家賃や材料費を引くと残るのはわずかなのですが、それをまたパンの勉強につぎ込みレッスンに活かす目標は、想定どおりになりました。セカンドライフの仕事としてよい選択をしたと思います」
●レッスンは月10回。パン作りをゆっくり楽しんでもらうために、1日に1レッスンが基本。
case6【特技を仕事に】手紙文の作成と代筆をスキルマーケットで提供。
若山静湖(わかやま・せいこ)さん 67歳
手紙文の作成と代筆 サービス
<月収入 約1〜10万円>
スキルマーケット「ココナラ」で、手紙文の作成と代筆サービスを行っている若山静湖さん。夫を早く亡くした後、4年前に娘一家が暮らす地に転居し穏やかな生活を過ごしていたが、何か自分の力でやらなくては、と強く思うようになった。
「子どもたちに相談すると、息子からできることは何かを考えてみては、と助言され目が覚めました。自分の得意なことは『文章を作り出し、美しい文字で手紙を書くこと』で、息子に教わった『ココナラ』に思い切って登録しました」。
徐々に高評価を得て、3年半の間に約90件の依頼を受けた。
「人様の代わりに自分がペンを握る重要性をしっかり意識しないと、気持ちの伝わる手紙は書けません。お役に立ち喜んでもらえる、それに対して対価が生まれることにやりがいを感じ、ありがたいと思って続けています」
●月収入は依頼数により大きく変動。1通につき文章作成と代筆で3日はかける。
『クロワッサン』1048号より