いま改めて見つめたい、親と子の絆。金子エミさんの家族の物語。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・木村三喜 文・嶌 陽子 プール撮影協力・ヨネッティー堤根
「泳ぐのが誰よりも好きなカイトは、世界一になれるはず」(金子さん)
きれいな日本語を使う、それが子育ての方針。
カイトさんを丸ごと受け止め、寄り添ってきた金子さん。唯一、子育てにおいて肝に銘じているのは「ネガティブな言葉を使わない」ということだ。
「カイトは知的障害があるので、覚えられる言葉も限られている。それがきれいではない言葉になってしまうのは嫌だなと思って。もうひとつ、『そんなことしていると〜できないよ』といった否定的な言い方もしないようにしています。『こうしたらできるよ』『大丈夫』って言い続けたんです」
そのことが、現在の水泳選手としてのカイトさんに大きく影響している。
「この子はメンタルが強い。何があっても前向きに捉えるし、気持ちの切り替えが見事なんです」
泳ぐのが大好きで、どんなにつらい練習をしても気丈。
カイトさんが「大好き」と顔を輝かせる水泳。出合いは11歳の時、きっかけはほんの偶然だった。
「カイトの弟が通っていたスイミングスクールで障害児クラスもあることを知り、健康のためにと思って通わせたんです。全く水を怖がらず、背泳ぎのターンもすぐにマスターするカイトを見て、コーチが『こんなダウン症の子は見たことないよ!』って驚いていましたね」
本格的に練習を始め、13歳で知的障害水泳の日本選手権に出場。数年前からは世界ダウン症選手権大会にも挑戦し始め、2018年のカナダ大会では背泳ぎ100mでアジアレコード。世界10位の成績を収めた。その熱心な練習姿や水泳への情熱を見ている金子さんは、次の世界大会では金メダルを獲得できると信じている。
「でも本人は、優勝云々より世界大会を楽しみたい、気持ちよく泳ぎたいという気持ちが強いみたい。確かにそのことのほうが大事なのかもしれないですね。それに不思議なことに、泳ぎ終わって『楽しかった!』という時は、大抵タイムがいいんです」
練習に励むカイトさんを、金子さんは全力でバックアップ。練習にも常に付き添い、コーチの指導をそばで一緒に聞きながら、カイトさんの自主練の際に役立てられるよう、自らも学ぶ。
「おかげで水泳を習ったことがなかった私も、いつの間にか4種目泳げるようになりました(笑)」