美村里江さんが選ぶ、大人に希望をもたらす3冊の絵本。
撮影・黒川ひろみ
美村里江(みむら・りえ)さん
女優、エッセイスト。ドラマ、映画、舞台、CMで活躍。エッセイや書評などの執筆活動も行う。4月に初の歌集『たん・たんか・たん』(青土社)を上梓した。
『虫ガール ほんとうにあったおはなし』
「好き」の根源を感じて明るい気持ちになります。
人の「好き」のエネルギーがどこによるものなのか、爽やかに描いていて明るい気持ちになります。
物語終盤、虫が好きな自分を否定しなくなった主人公のソフィアに、また違った「好き」が増えていくのも素敵。人生は「好き」が多いほうが幸福、という当たり前のことを改めて感じます。「好きをおやすみする」という言い方もぐっときました。やめるのではなくおやすみ。こんなふうに考えられたら、もっと好きが増えていく気がしませんか。
『怪物学抄』
独特のねじれたユーモアで、逆に頭がすっきり。
大好きなアニメーター、山村浩二さんの妖しく魅力的な絵本……というより、イラスト満載の哲学書のようだと私は感じます。気分が毛羽立ったような時に読むと不思議とすっと落ち着く本で、ダークでユーモラス、イラストも添えられた言葉も大人っぽく洒落ています。
いつ読んでも質量が変わらない、同じ世界に必ず連れ出してくれる本は、時代問わず残っていく名作の条件かなと思います。元はアニメーション作品で、そちらもおすすめです。
『ま、いっか!』
「ゆるさ」全開! 今、特におすすめです。
自分の失敗に気づき青ざめても、次の瞬間「ま、いっか!」とほどける主人公“テキトーさん”を見ると、笑ってしまいます。前から好きな絵本でしたが、自粛生活中に読み、別の感覚を得ました。
友だちと会うこと、旅行、撮影の仕事……。いろいろなことを封印しての生活中、人の命もかかった場面で「適当さ」は忌むべきものでした。でもこの絵本を読んで、このテキトーにしてもなんとかなる“クッション性の高い日々”がつくづく恋しいなと思いました。
命に関わる事態に「ま、いっか!」は混ぜるな危険、ですが、害のないルーズさに癒やされていた日々は豊かでした。テキトーさんを多数許容できる社会が実現するとしたら、きっと物理的にも精神的にも相当ゆとりがある状態ですね。そんな未来があるといいですね。ところで一見すると外国人のようなおおらかさのテキトーさんですが、オチを見ると「あ、日本人かも!」ともう一段階笑えますよ。
『クロワッサン』1025号より