今だからこそ面白い。大人が読みたい、珠玉の絵本10選。
撮影・黒川ひろみ 文・新田草子
『太陽といっしょ』クレヨンハウス
新宮晋 作
瑞々しい絵と物語に、呼び覚まされる記憶。
どこまでもついてくる太陽や友だちと一緒に、自然の中で冒険と発見が詰まった一日を目いっぱい遊ぶ。風や水などの自然エネルギーで彫刻を作るアーティスト・新宮晋が、子ども時代の思い出を、80歳を超えた今も瑞々しさを失わない感性で描き起こした一冊。「ちょっとしたことにワクワクした気持ちや、空想の世界にふと入り込む瞬間、風や草のにおい。あるいは見知らぬものに出合う不気味さと、大切な人が待つ家に帰る安堵感。そうしたものがダイナミックな絵と物語にぎゅっと詰まっていて、子どもの頃の懐かしい記憶が一気に呼び覚まされます」(クレヨンハウス・馬場里菜さん)
『ハリネズミと金貨』 偕成社
ウラジーミル・オルロフ 作 ヴァレンチン・オリシヴァング 絵 田中潔 文
晩秋の気配も心地よい、温かなストーリー。
森の小道で拾った金貨を手に、冬支度の買い物に出かけたハリネズミのおじいさん。道中、親切な動物が次々と助けてくれる。人気アニメ画家・オリシヴァングの描き下ろし。「ロシアの厳しい自然に生きる者たちの"お金よりも友"を大切にする心を、ハリネズミと仲間の温かなやり取りを通して語ります。オリシヴァングの故郷エカチェリンブルグは、雪が深く11月~4月くらいが冬。日照時間も短いので、太陽の低い秋の昼間の明かりは絵のオレンジ色を連想させるものだと思います。そんなところからも、生まれ育った風景を想像し描いた、作家の命を宿した作品だと感じます」(きんだあらんど・蓮岡修さん)
『わたしが山おくにすんでいたころ』 ゴブリン書房
シンシア・ライラント 文 ダイアン・グッド 絵 もりうちすみこ 訳
心の奥に火が灯るような、優しい回想録。
厳しくも豊かなアパラチア山脈の自然の中で、大人たちに見守られながらのびのびと過ごした少女時代の思い出の日々を綴った、アメリカの作家シンシア・ライラントのデビュー作。「著者が体験した、美しき在りし日々の営みが、『わたしがまだちいさくて山おくにすんでいたころ…』の繰り返しで淡々と語られます。祖父母が孫たちに向ける優しいまなざしと、大自然の中で育つ子どもたちの安心しきった笑顔。時代や国を超えて大切にしたいものを実感できる、良質な一冊です。柔らかなタッチと繊細な色遣いの絵が、ストーリーの温かみをいっそう際立たせます」(てんしん書房・中藤智幹さん)
『ちいさいきみとおおきいぼく』 ポプラ社
ナディーヌ・ブラン・コム 文 オリヴィエ・タレック 絵 礒みゆき 訳
ひとりじゃないことの、素晴らしさ。
ずっとひとりで過ごしてきたオオカミのもとにある日、ちいさいオオカミがやってきて……。誰かと生きる喜びとぬくもりを伝える、フランス生まれの絵本。「物語の主題は、大きいオオカミの『こんなきもち、はじめてだ』に集約されています。絵はシンプルで端的、かつ大胆な構図。コミカルに描かれたオオカミのつぶらな瞳や背景の木や花、空模様などからも、感情の揺れや時間の経過、季節の移ろいが感じられます。ハラハラしながらもキュンとするストーリーで、読後は清涼感ある安堵感に包まれるはず。ひとりよりも、大切な誰かと一緒に楽しんでほしい絵本です」(ism・辻中礼子さん)
『くうき』 理論社
まど・みちお 詩 ささめやゆき 絵
普遍的な存在を、名作の詩と大胆な絵で表現。
日本を代表する詩人のひとり、まど・みちおの一編の詩に、画家のささめやゆきが絵を描いた一冊。「空気は、ふだんは意識さえしない存在。けれど、無くなったら誰も生きてはいけず、そして地球上に分け隔てなく存在する尊いものであるということを、改めて教えてくれます。ひとつひとつの言葉が丁寧に選ばれていて、声に出して読むとまた響きが違うのも面白いです。紙面をはみ出すような迫力のあるささめやさんの絵も必見です。まだ字が読めない小さな子が楽しめるのもいいところ。年齢を問わず、ぜひ多くの人に手に取ってほしいです」(メリーゴーランドKYOTO・鈴木潤さん)
『クロワッサン』1010号より
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