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【紫原明子のお悩み相談】もう30歳なのに恋愛や結婚にまったく興味がわきません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は異性に興味が持てない一人遊びが上手な女性からの相談です。

<お悩み>
30歳。結婚にまったく興味がわきません。彼氏が欲しいと思ったことも一度もありません。
あまりに異性に興味なさすぎて病気かな? と思ったりもします。
一人で旅行したり一人でコンサート行ったり一人で買い物してご飯食べて……こんな自由な生活が奪われるなら結婚なんてしたくないです。
ですが……いまは結婚したくなくても、もし40歳くらいに結婚したくなっても子供は無理だよな。とかいろいろ考えてしまいます。どうしたらいいのか自分でもわかりません。
婚活パーティも一度も行ったことないですし、友達からの紹介も、大丈夫、と断ってきました。そういうことは避けて通ってきました。
やはりもういい歳ですし、そういう場にも行ったりして慣れたほうがいいんでしょうか?
(相談者:みかん/女性/30歳 OLです。)

紫原明子さんの回答

みかんさんこんにちは。
一人の時間を楽しむことがとてもお上手なんですね。であればなにも心配することはないのではないでしょうか。なにしろ、一人遊びには事欠かない世の中です。たとえ今の趣味に飽きたって、一度趣味に興じることを知った人なら、すぐにまた次の趣味がみつかるでしょう。今読んでくださっているようなウェブの記事も、あるいは映画やドラマ、アニメなどの動画コンテンツも、はたまた音楽も、ゲームも。あらゆるサービスは、忙しい私達の時間をいかに長く奪うかを考えて設計されています。ここに抵抗することをやめれば、いつまでも退屈知らずで過ごせそうです。

寒いねと話しかければ寒いねと答えてくれる人がたとえ隣にいなくても、地上波で流れるラピュタを見ながら「バルス」と同時に言い合う相手ならTwitter上に何百万人といます。

老後に孤独死をしてひとさまに迷惑をかけるのが怖いなと思ったら老人ホームに入れるくらいの蓄えを今から用意しておけば良いし、そもそも結婚したから、子どもを産んだからといって孤独死が避けられるとも限りません。

他人と結婚し家計を同一にすることで、いざとなったときに経済的、精神的に支え合える、その安心感を得られるというメリットを感じる人もいるでしょう。でもそれと同じだけ、自分もいざとなったら相手を背負う覚悟を決めなくてはなりません。さらに、ひとたび書類を提出しさえすればそれで結婚ミッションはコンプリートかというと当然そんなこともなく、人間という生物(なまもの)といつまでも関係性を維持していくためには、終わりなきチューニングが必要です。

こういうことをひとつひとつ考えていくと、やはり今の時代の恋愛や結婚って、なんとなく手を出すには、面倒事が多い割にメリットが少ない、必ずしもコスパの良くないことだと思います。私自身はコスパの良くないことが好きなほうなので少々嗜みますが、仮にもし、それにもまさる趣味を持っていれば、やっていないのではないのではないでしょうか(事実、数ヶ月前に気まぐれにポケモンGOを再開して以来、恋人との連絡回数は激減しました)。つまり恋愛や結婚というのは、趣味としてやりたい人か、もしくは生存戦略として必要な人だけがやればいいものだと思うんです。

にもかかわらず、世間はとかく独身の女性に恋愛や結婚、出産をさせよう、するべきという見えない圧をあちこちからかけてくるので、厄介ですね。もしかすると、恋愛や結婚をするという選択をした人の中には少なからず「恋愛や結婚をしろ」と、まわりからうるさく言われなくなるために“とりあえずした”という人もいるのではないでしょうか。

そんなに乗り気じゃないのに他人と長い時間付き合っていくコストと、一人で生きる代わりにいつ結婚、妊娠するのかと周囲からジリジリと責められ続けるコストとを天秤にかける。そんな地獄のような計測の答えを出したい、というのが今回のみかんさんのお悩みではなかったことが、ひとえに素晴らしいことだと感動しています。好きなことをひとりでやり続ける限り充実している、だから結婚したいと思わないというお悩みからは、他人の無責任な声に簡単に流されない強靭さと、自分の欲望を知っているみかんさんの聡明さがにじみ出ています。

子どもについては、現段階で諦めずとも、ひとまず卵子を凍結して結論を保留にするという手段もあります。費用もかかることですし、いつかは結論を出さなければならないことに変わりはありませんが、そうはいってもこの先何が起きるかわかりません。みかんさんの価値観を一変させるような、衝撃的な出会いもあるかもしれません。……というより、価値観を変えるくらい大きな力を持つからこそ、出会いに価値があるのであって、まだ見ぬ誰かと出会うために(しかもその出会いをそもそも必要としていないのに)今から価値観を変えておく、というのは、順序が逆なのではないかとも思うのです。

何をどう選んだところで、選べなかった人生というのはいつだってセットでついてきます。私自身はたまたま子どもを産んで、子どもを産まなければ知り得なかった喜びをたくさん知ることができたけれども、仮にもし子どもを産まなかったとしても、子どもを産まなかった人生でしか味わえなかった喜びを、きっとたくさん知り得ていただろうと思います。結婚しなかった人生、離婚しなかった人生、選ばなかったもの、諦めてきたものは多々あれど、そればかりは結局いくら見つめ続けても仕方のないことで、最後にはいつだって、目の前にあるものを味わい尽くすという強い意志こそが、あらゆる選択をまあなんとなく正解、という方向に導いてくれるはずだと、私は信じています。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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