人生が私を導いてくれるのです――シモーヌ・ベイユ(政治家)
文・澁川祐子
人生が私を導いてくれるのです――シモーヌ・ベイユ(政治家)
シモーヌ・ベイユ(1927-2017)は、「フランス人にもっとも敬愛される女性政治家」と呼ばれてきた人。このインタビューは、フランスにおける人工妊娠中絶の合法化を成し遂げ、厚生大臣を務めていた頃のものです。その後も欧州議会の初代議長を務め、大臣職などを歴任しました。
その半生は波乱万丈です。16歳でアウシュヴィッツの強制収容所に送られますが、収容所生活を奇跡的に生き延びて終戦を迎えます。戦後はパリ大学で法学、政治学を学び、19歳で同級生と学生結婚。三児の母になっても働くことを諦めず、政治家として花開きます。
名言が出てきたのは、取材も終わりにさしかかる頃。<老後のことを考えますか>との質問に対し、<一度も考えたことがありません。計画を立てても人生は予定通りにすすみません>と答えたあとに、今回の名言が続きます。
私が人生を決めるのではなく、<人生が私を導いてくれる>。この言葉は、同じくアウシュヴィッツから生還した精神科医ヴィクトール・E・フランクルの有名な言葉ーー我々が人生の意味を問うのではなく、人生から問われる存在なのだという一節に通じるものがあります。
続く<過去に生きることもありませんか>との最後の問いかけには、<未来と同様、まったく考えたことがありません。私は現在に生きていますから>。
数々の理不尽に翻弄されながらも力強く生きた女性らしい受け答え。その潔さに「生」の現実と真実の両方をいっぺんに垣間みた思いでした。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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