寄席でのすごし方や“サイン”をご紹介。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
落語を中心に演芸を楽しんでいただく寄席は、一組が15分ほどの持ち時間で昼夜合わせて三十組前後がいれかわり立ちかわり登場します。
お客さまから「あんなに大勢だと楽屋は大混雑でしょう」とご心配いただきますが、実は出番の30〜40分前に楽屋入り、一席終わればすぐ帰るのが日常です。
もちろん長居して、師匠方の芸を勉強したり、馬鹿っ話に花を咲かせることもありますが、通常滞在時間は小一時間です。
自分が高座にあがるときに、次の出番の人が前の仕事が延びたなどの理由でまだ楽屋入りしていないなんて場合も。そんなときは「つなぐ」といって、おあとの人が楽屋に入り、高座にあがる支度が整うまでしゃべり続けなくてはいけません。私は過去、15分予定の高座で40分しゃべったことがあります。ええ、ドキドキですとも、それはもう。
一人で演じる落語家が、お客さまに知られないように楽屋からのサインを受けるときに使うのが「羽織」です。ふだんはおしゃべりしながら脱いだら自分のうしろに置いておきますが、つなぎの場合は脱いだ羽織を高座の袖に放り投げます。
楽屋であとの出演者の支度ができたら、前座が目立たないタイミングで袖の羽織を引いて取り込む。横目でそれを見た高座の噺家が「もう終わってもいいんだな。では良い加減のところでオチをつけて高座を降りよう」と考える……。
皆さんに素敵な落語日和をすごしていただくために、気づかれないところでハラハラするような瞬間があったりするんです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1003号より
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