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【前編】たおやかなのに大胆で、自然体。夏木マリさんに学ぶ、生きるコツ。

年代・性別を問わず、「カッコいい」「素敵!」と賞賛される夏木さん。その圧倒的オーラの秘密を探るべく、過去から今に至る半生を語ってもらった。

撮影・HIRO KIMURA(W) スタイリング・岡部俊輔(UM) ヘア・TAKU(CUTTERS) メイク・FUMIKO HIRAGA(SENSE OF HUMOUR) 文・一澤ひらり

「不器用でカッコよくないの。でも、 出会いで救われ、仕事で鍛えられて」

夏木マリ(なつき・まり)さん●歌手、俳優、演出家。1952年、東京生まれ。’73年デビュー。’80年代以降は演劇をはじめ幅広い分野で活躍。’93年に立ち上げた「印象派」で身体表現を軸とした芸術表現を確立。
夏木マリ(なつき・まり)さん●歌手、俳優、演出家。1952年、東京生まれ。’73年デビュー。’80年代以降は演劇をはじめ幅広い分野で活躍。’93年に立ち上げた「印象派」で身体表現を軸とした芸術表現を確立。

意志を感じる視線、きっぱりとした口調、颯爽とした佇まい。歳を重ねても、「カッコいい女」の代名詞として輝きを放ち続ける夏木マリさん。

「そう思ってもらえるのはうれしいけれど、わりとドジだし、不器用だし、実はあまりカッコよくはないの。でも仕事で鍛えられて、人との出会いで救われて、なんとかやってこれました。もちろんここまできたら、それなりに自分らしく生きているとは思うけれど」

すんなりと肩の力が抜けていて、なんの気負いもない。それは挫折や失敗が続いた不遇の〝暗黒時代〟をあきらめずに歩いてきたからこそ。歌手としての夏木さんといえば、歌謡曲『絹の靴下』の大ヒットで知られるが、その後、鳴かず飛ばずの状態になって、8年間キャバレー回りを経験した。

「羽振りだけはよくて、ブランド品を買い漁って、毛皮のコートに外車を乗り回すみたいなイヤーな芸能人(笑)。とにかく20代後半はヤケクソで、ジャニス・ジョプリンのように歌いたいと思う理想と、現実とのあまりのギャップに自分が何をしたいのかもわからなくなっていましたね」

夢も希望もない自分に嫌気がさして30歳で事務所をやめた後、移転した日劇ミュージックホールのこけら落としの出演依頼が舞い込む。「ヌードの殿堂」としてつとに知られた劇場だ。

日劇ミュージックホールの、ダンサーのプロの矜持に目覚める。

「トップレスの女性ダンサーによるレビューで人気でしたが、ちょっと尻込みしていたんです。ところがダンサーたちのプロ根性を目の当たりにして衝撃を受けました。プロの矜持を持って仕事をし、何よりも踊りを楽しんでいて努力を惜しまない。私に欠けていたものがそこにありました。それからは『やる気スイッチ』が入って、自らレッスンに通うようになりましたね」

夏木さんにとって、それがひとつの転機になる。常連客には著名な演出家や映画監督などがいて夏木さんに目を留め、演劇の舞台に誘われたのだ。

「まるで基礎がないし、何もわからないから必死でした。演劇が好きで入ったわけではないから、誘われるがままに仕事をして、褒められるとうれしくてがんばっているようなところがありましたね。人生前半怠けていたでしょ。ヤケクソの20代から、まさに崖から飛び降りた30代でした(笑)」

右も左もわからずに飛び込んだ演劇の世界で、小劇団から始まり、新劇、シェイクスピアやギリシャ悲劇……、ひたすら経験を重ね、足元を固めていくしかなかった。

「もう劣等感のかたまり。私は歌謡曲だったのでミュージカルの発声とは違うんです。稽古が始まる前にダンスと歌の自主練習をしたり、劇団民藝のお芝居に出たときは、北林谷栄さんの家に1カ月通って教えていただいたり。ありがたかったですよね。でもそうしないとついていけなかったんです」

単身NYへ乗り込んで、自分から ドアを叩く大切さを学べました。

実に努力の人なのである。現場で徹底的に鍛えられながら、鈴木忠志や蜷川幸雄という錚々たる演出家に起用されるなど、徐々に俳優としての評価を高めていった。しかし――。

「演劇って集団でやるものでしょ。集団の中にいると、だんだん自分の立ち位置がわからなくなってきて、コミュニケーションがうまくとれずに孤立したりして、一度ひとりになってみようと思ったんです。30代後半からは海外のディレクターとも話す機会が増えていたので英語も勉強したかったし、ブロードウェイを視野に入れつつ、単身NYへ行ったんです」

事務所には3年前から申請して、38歳のときに半年間の遊学期間をもらった。NYでは知人の紹介を頼りに毎日のようにプロデューサーに会い、ボイストレーニングを受けたりするなど、精力的に日々を過ごした。

「英語もまともに話せないのにたくさんの人に会いました。そういうところは大胆不敵なの(笑)。結局、仕事には結びつかなかったけれど、自分でドアを叩くことの大切さを学べたことは大きな収穫でしたね」

アウターウエア26万円、ジャケット17万円、デニムパンツ10万円、Tシャツ6万4000円、シューズ13万円、イヤリング3万1000円〈全て予定価格〉(以上バーバリー/バーバリー・ジャパン jp.burberry.com)

『クロワッサン』1003号より

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