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“物忘れ”と深く関わっているワーキングメモリとは? 脳科学者に聞いた。

〝物忘れ〟と深く関わっている脳のワーキングメモリという働き。それは、私たち人間ならではの特別な力だった!脳科学者の篠原菊紀さんに聞きました。

撮影・青木和義 イラストレーション・黒猫まな子 文・嶌 陽子

機能の低下が著しくなるのは40代から。適切な生活習慣で防ぐことはできる。

残念ながらワーキングメモリは加齢に伴って衰えていく。

「18〜25歳がピークで、その後は低下していきます。ワーキングメモリの機能を測るテストを行うと、40代以降の人の成績は、20代の人と比べるとかなり低いのです」

ワーキングメモリが主に関わっている前頭前野は、年齢とともに萎縮するなど、衰えやすい部分でもある。また、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβも、前頭葉や海馬に蓄積されやすい。これがワーキングメモリの衰えの原因とされている。

「脳の機能をなるべく維持するために、WHO(世界保健機関)が推奨しているのが運動、禁煙、バランスの良い食事など。実はこれらは生活習慣病予防のための対策と同じ。これに認知的なトレーニング、つまり脳トレなどを行うことでワーキングメモリの低下を防ぐことが期待できます」

脳を若く保つうえで一番大事なのは、〝健康的な生活〟なのだ。

ワーキングメモリのピークは18〜25歳で、それ以降は機能低下する。少しでも食い止めるにはまず生活習慣から。
ワーキングメモリのピークは18〜25歳で、それ以降は機能低下する。少しでも食い止めるにはまず生活習慣から。

【WHOによる認知症と認知機能低下の予防のためのガイドライン】

・運動の習慣化
・禁煙
・アルコール摂取の抑制
・健康的な食事
・血圧・コレステロール・血糖値のコントロール

+認知的なトレーニング

他人の愚痴や不安……。ワーキングメモリは ストレスに〝食われる〟。

ワーキングメモリはネガティブなストレスに弱い。人の愚痴や悪いニュースを日常的に聞き続けていると、その機能は低下してしまう。

「不安や恐怖といったネガティブな感情は、脳の中の扁桃体を活性化させます。すると交感神経が活性化し、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンといったホルモン群が分泌します。これがストレス反応であり、通常は短時間で治まる。ですが、不安がずっと続くと、いわゆる〝ストレスが溜まる〟〝慢性ストレス〟という状態に。恐怖や不安が頭から離れないということはつまり、ワーキングメモリ=脳のメモ帳がそのことで占領されてしまうということ。そのため、脳のパフォーマンスが落ちてしまうのです。恋愛や結婚式など、楽しいことがある場合でも同様にワーキングメモリを使うのですが、ネガティブなストレスのほうが、より多くワーキングメモリが〝食われて〟しまうことが分かっています」

コロナ禍で不安が続く昨今。もし最近特に物忘れがひどい場合、それは長期間抱えているネガティブな感情がワーキングメモリを占領してしまっているのかもしれない。

ある不安がずっと頭を占めていると、脳のメモの3〜4枚のうちの1枚以上は、必ずそのことに占められてしまう。
ある不安がずっと頭を占めていると、脳のメモの3〜4枚のうちの1枚以上は、必ずそのことに占められてしまう。
“物忘れ”と深く関わっているワーキングメモリとは? 脳科学者に聞いた。

篠原菊紀(しのはら・きくのり)さん
公立諏訪東京理科大学教授

脳科学者。幼児教育や中高年の脳トレ開発のほか、テレビやラジオでも活躍。著書に『脳科学が教えてくれた 覚えられる忘れない! 記憶術』(すばる舎)など多数。

『クロワッサン』1030号より

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