巨大な穴を作れるか?『Hole.io』│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
画面上に現れた穴を指で動かしながら、制限時間内にどれだけ人や物を呑み込めるかを競うゲーム。
ただし、画面の穴は一つではない。いくつもの穴が動き回り、目の前で獲物をかっさらわれたりする。自分より大きい穴に呑み込まれたら、その時点でゲームオーバー。
穴を操り、逃げ惑う人や車を呑み込んで怪獣気分を味わっていると、後ろから現れた巨大な穴に呑み込まれて全てを失ってしまう。
ひどいわ、せっかく頑張ったのに。そもそもいきなりデカい穴が出てくるなんて、そんなのあり?
この不条理感を何に例えよう。弱肉強食の人間社会だろうか?
いや待て、もっとそっくりなシステムがある。ネズミ講だ!
子ネズミが善男善女をだまくらかして巻き上げた小金を、親ネズミが吸い上げて行く、あれですよ。
ネズミ講は親ネズミが儲かるように出来ている。だから親にならないと儲からない。人に誘われて入った時点で損する運命なんですね。
実は博打も同じで、親を取らないと儲からないらしい。それを理由に公営ギャンブルをやらない人もいる。
考えてみたら株も同じだ。「上がる」と誰かに勧められた時点で、もうその人は儲からない。本当に値上がりするなら、他人に勧めたりしないでこっそり買い占めるだろう。
オレオレ詐欺も、出し子をやってちゃダメよ。企画立案しないと。
いや、決して勧めてるわけじゃないですよ。ただ、ままならぬ人の世が、切ないだけです。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最新刊『ふたりの花見弁当 食堂のおばちゃん4』(ハルキ文庫)。
『クロワッサン』988号より
広告