毎日の歯磨きにはちみつを利用する。
取材・文/石飛カノ 撮影/森山祐子 写真、データ協力/山田養蜂場
ハチ・マル・ニイ・マル。この合い言葉は、80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという意味。厚生労働省と日本歯科医師会が推進している8020運動のこと。
なぜ20本かというと、少なくとも20本以上自前の歯があれば、食物をしっかり噛むことができて食事を楽しめるから。そのために定期的な検診やセルフケアによって、健康な歯を保ちましょうという啓蒙運動だ。
ところが、この運動の妨げになっている大きな原因がある。それは虫歯と歯周病。
食べたもののかすが、歯の表面や隙間に溜まって歯垢になる。それらが唾液の中に含まれるカルシウムで石灰化したのが歯石。
虫歯は歯垢の中で増殖した菌が糖を分解するときに生じる酸によって歯が溶け出すという現象。また、歯垢と歯石が蓄積されるとやはり菌が繁殖し、その毒素によって歯ぐきに炎症が起こる。こちらが歯周病だ。
これらの歯のトラブルのデメリットは自前の歯を失うことだけにとどまらない。口の中で繁殖した菌の毒素は歯ぐきから血管に入り込み、全身に悪影響を及ぼすことが分かっている。たとえば、心筋梗塞、肺炎、骨粗鬆症などなど。
はちみつはそんな歯石の蓄積や虫歯の予防に役立ってくれる、と聞いたら、
「そんな、バカな!」
と誰もが思うことだろう。前田さんも最初に聞いたときは、
「まさかねえ!」
というのが正直な感想だったという。
甘〜いはちみつが、虫歯や歯石を予防?
でも考えてみれば、下手な薬よりも傷ややけどの治癒に役立つ抗菌・殺菌作用を持つはちみつ。虫歯や歯周病の菌に作用すると考えても不思議はない。実際、はちみつは虫歯の原因のミュータンス菌の働きを抑える作用があると言われている。
さらに、下のグラフのように歯石の蓄積を予防する作用も期待できるという。
「グラフに描かれている緑のラインは、歯磨き粉に入っている歯石予防作用があるエチドロン酸という成分です。試験管の中の歯石のもとのリン酸カルシウムに18種類のはちみつをそれぞれ加え、どの程度歯石に変換されるかを調べました。すると、ほとんどのはちみつ、とくにグラフのオレンジで示された部分のはちみつは歯石予防効果が高いことが分かりました」(山田養蜂場・鳥家さん)
最初は半信半疑だった前田さんも、実際にはちみつ歯磨きを試してみてびっくり。
「驚いたのは重曹のような研磨剤がないのに、磨いた歯の表面がすぐにつるつるになっていく感覚。その感覚を味わって以来、はちみつ歯磨きにはまって、いろいろ試してみました」
試行錯誤を経て辿り着いたのが、以下のレシピ。大さじ2杯のはちみつにはっか油を5〜6滴垂らしてよく混ぜ合わせる。フタ付き容器に保存して、使うときは小さなスプーンで歯ブラシに乗せる。磨き終わると歯はつるんつるん、息はミントの香りで実に爽やか!
「私ははっか油とまんべんなく混ぜ合わせるために、結晶化しにくいはちみつを使いますが、重曹のようにジョリジョリする感覚で歯を磨きたいという場合は、結晶のあるはちみつを使う手ももちろんありです」
各種のはちみつにおける歯石予防効果の比較
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— マガジンハウス 編
定価:810円 (税込)
はちみつの“薬効”を最大限に生かす、具体的な方法をシーン別に紹介します。
さあ、今日から「はちみつ生活」始めましょう!
お話を伺ったかたがた
・中村 純さん 玉川大学ミツバチ科学 研究センター教授
・前田京子さん エッセイスト ベストセラー『ひとさじ のはちみつ』著者
・藤善博人さん 山田養蜂場 養蜂部顧問
・鳥家恵莉さん 山田養蜂場 サブチーフ