【片づけ下手でもできる】後悔しない「捨てる」レッスン。
撮影・清水朝子 文・中澤小百合
収納の容量に合わせてモノを減らすべきとわかってはいても、片づけ下手ほど、捨てるのが苦手。整理収納アドバイザーの中山真由美さんによると、作業にかかる前にやるべきことがある。
「家の中が散らかっているから片づけたいという理由だけでは、うまく捨てられないのです。子どもが独立したのを機に、夫妻の趣味のスペースを充実させたいなど、まず、今後どういう部屋にして、そこで何をしたいのか、目標を決めるべきです」(中山さん)
家族で意見を出し合い、理想の暮らしを思い描くことで、他人の視点やマニュアルでは決められない、独自の基準で捨てるか否かの判断が容易になる。
「自分なりの基準で本当に大切なものだけを残せる、未来型の片づけ脳です。明るい気持ちで進められますよ」
そのうえで作業に入ったら、判断に迷うときは「保留もあり」。
「悩むのは5秒まで。ひとつに時間をかけるよりも保留にして次に進んだほうが効率がいいのです。ただし、保留の理由が同じものをまとめて、ラベリングして仕分けておきましょう」
ラベルを見れば自分の判断が一目瞭然。3カ月後を目安に再度チェックを。
「時間が経ってから見ると、すんなり捨てられることもありますよ」
台所は片づけ下手でも判断しやすい、初心者向きのスペース。
「台所は、賞味期限切れの食品や劣化した道具など、すぐに捨てる決心がつくものが多く、取捨選択の訓練に適した場所。結果が出やすいうえに、家事の手際が格段によくなるので、片づけ初心者におすすめです」(中山さん)
今回、実際に中山さんが指導したMさんは、この3月に結婚したばかり。新居は、もともと家族5人で住んでいた夫の実家。兄弟が独立し、数年前に両親を亡くした後、夫がひとり暮らしをしていたマンションだ。Mさん夫妻には充分な広さだが、家族の使っていたものがだいぶ残っており、なんとなく狭い思いで暮らしているという。
「コンロには、よく使う鍋が出しっぱなし。他の鍋を使う時はどこかに動かさないといけないので手間がかかってしまう。ワゴンがある分、狭くて収納が使えないのも気になる。すっきりさせて時短家事を目指したい」と目標を設定したMさん。さあ、作業開始!
中山流片づけの手順は、いまあるものを全部出すことから始まる。
「なにがどれだけあるか、把握することで必要なものを明確に」(中山さん)
グループごとに分類すると、なぜこんなに同じアイテムを持っているのか、自分でも不思議なほど。「まだ使える」と思うから、つい取っておいてしまうが、「使える」ではなく、「使う」か「使わない」かで仕分けするのが鍵。
「『これから使うと思う?』がキーワード。『使えるけれど、使わないかも』は『捨てる』。過去にひきずられないことが大切です」(中山さん)
リフォームが必要と考えていたというケースでも、
「その前に『捨てる』ことで必要なくなることが多いんです」(中山さん)
Mさん宅の台所も、上写真のとおりの大変身。使うものだけを、使いやすい位置に収納したことで、見違えるように機能的ですっきり! なにをどう判断して捨てることにしたのか、ポイントは以下にまとめた。
1.調味料やストック食材の賞味期限切れを捨てる。
棚や引き出しの中を確認すると、奥から何年も前の乾物が出てきたなどということも。「食材は賞味期限が記載されていて、なにより捨てる判断がラク。ここから取りかかりましょう」(中山さん)賞味期限内だったとしても、開封してあると足が早いので要注意。調味料や油はどんどん酸化するし、粉ものには虫がつく心配も。使いそうもないなら、これを機に捨ててしまおう。「収納をコンパクトにするために、外箱や外袋を捨ててしまうのも有効。その場合は、ラベルに賞味期限を書き写しておくことを忘れずに!」(中山さん)
2.多すぎるモノを自分にとって必要な数に絞り込む。
シンクの上のフックにかけてあったり、引き出しに収納されていたり。驚いたのは、おたま、ヘラ、しゃもじなどの調理ツールの数がかなり多いこと。「夫の母親は料理上手で、いろいろな用途に分けて道具を揃えていたようなのです」とMさん。手入れもよく使えるものばかりだったが、必要なものだけを残し、あとは処分。ざるとボウルも、重ねて収納しやすい大きさの違うものを3つずつに絞ることに。砥石とシャープナーは、アイテムとしては違っても用途は同じ。より簡単に使えそうなシャープナーのみを残すことにした。こうした判断も、全部出してみて初めて気づくことができる。
3.使い勝手が悪いものは思い切って手放す。
たとえば、鍋やフライパン。複数あってどれを残すか考える時、新品に近いほうを選んでしまいがちだが、道具は使いやすさで判断すると後悔がない。まわりが黒くなっている卵焼き器は、「焦げつかずとても使いやすい」とMさんは残すことに。家族の人数のわりに大きすぎる道具も検討の余地あり。直径20〜30㎝の大きなすり鉢は、2人分の食事を作るのには適さないし、収納場所をとるため、手放すことに決定。きれいでまだ使えそうだけれどフタがない鍋や、逆に、探してもぴったり合う相方が見つからなかったフタも処分の対象。
4.状態が劣化しているものは排除。
どんなに大事に使っていても、しまい込んでいる期間が長くなると、モノは傷んでしまう。Mさんの台所の、開かずの扉になっていた収納からは、寿司桶に鰹節削り器、ところてん突きまで出てきたが、木製の道具の多くにカビが見られた。「梅干し壺などの陶器も古いものは劣化して、触れただけで粉々になることもあるので注意してくださいね」(中山さん)
5.空気しか入っていない嵩ばるものは処分。
「まだ使えるものを処分するとなると『もったいない』と思いがちですが、本当に『もったいない』のは使わないもので占領された空間です」(中山さん)中に空洞がある重箱や密閉容器などをそのまましまってあるのは、いわば空気を保管しているようなもの。しばらく使っていないなら、なくしてみても支障はないはず。
6.趣味に合わないものとはサヨナラ。
理想の暮らしに近づけるための片づけであれば、機能性だけではなく、自分の趣味に合うかどうかを判断基準に入れることも大切。ただし、家族のお気に入りを許可なしに勝手に捨てないこと。自分だけの好みではなく、家族みんなの趣味を尊重することは、円満な片づけのポイントだ。
7.使っていない家電はリサイクルに。
台所にあるものの中でも、値段が高いがゆえに気軽に捨てにくいのが家電。でも、家族構成やライフスタイルが変われば、使わなくなるものが出てくるのは当然のこと。場所をとることも多いので、「また使うかも」としまい込まずに、きれいなうちにリサイクルに出すことを検討してみよう。
『クロワッサン』951号より
●中山まゆみさん 整理収納アドバイザー/インブルーム取締役、整理収納サービス事業部責任者。個人から不動産業までの収納コンサルティングや、セミナー講師も務める。
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