冬の味覚を堪能する。きらきら羽越観光圏の旅<1>
文・斎藤理子
この季節にしか味わえない、
名物の寒鱈汁を体験しに庄内へ。
新潟県、山形県、秋田県の羽越本線を走るきらきらうえつ号。海岸線に添って走る列車からは、日本海の絶景や沿線の大自然が堪能でき、停車駅には見所も満載な街が点在しています。冬の日本海の街旅情がたっぷり味わえるこの列車に乗って、羽越本線沿線の旅に行ってきました。
海・山・里・畑。
四季折々の美味にあふれる食の都庄内へ。
まず降り立ったのは、新潟から約2時間で到着する山形県庄内地方の鶴岡駅。地産地消という言葉が登場するずっと以前から、地元の生産者の作る安心安全で美味しい食材のみにこだわった独自のイタリアンを創り出し、今や世界的なシェフとなった奥田政行氏のレストラン「アル・ケッチァーノ」がある街として有名です。庄内の豊かな食文化を体現した「アル・ケッチャーノ」を目指して世界中から人々がやってくる鶴岡は2015年、日本で初めて、ユネスコから「食文化創造都市」の認定を受けました。 日本海と出羽三山に囲まれた庄内地方は、最上川が運んで来た豊穣な土壌と清冽な雪解け水に恵まれた、日本でも有数の米どころです。はえぬき、どまんなか、つや姫など山形独自のブランド米も多く作られています。生産している農作物の種類の多さでも群を抜いていて、作られていない野菜はないといわれるほど。だだちゃ豆や民田茄子、藤沢カブといった庄内地方独特の在来野菜もたくさんあり、その種類の豊富さは京野菜にも勝るといわれています。地力のある山では、様々な山菜や筍なども豊富に採れ、庄内人の食生活を豊かにしています。魚影濃い庄内浜の魚介類はいうまでもありません。
冬の味覚はなんといっても寒鱈汁。
1尾丸ごとの旨味を全部いただく。
おいしいものがいっぱいの庄内ですが、冬の味覚といえばなんといっても、庄内浜で水揚げされる寒鱈。真ダラは東日本ではどこでも獲れる魚ですが、寒さが厳しい冬の日本海で、特に寒の内に獲れるものを寒鱈といいます。その中でも庄内浜のものは、日本1の美味しさ。その秘密は、入り組んだ海流と豊富なエサに恵まれた庄内の海にあります。極寒の日本海の荒波で育った寒鱈の締った身には味がのり、コラーゲンをたっぷりと蓄えたぷるぷるの食感もたまりません。
この寒鱈を丸々1尾、切り身はもちろん、内臓や白子、皮、エラ、頭、骨まで余すところなく使い切ってつくるのが「寒鱈汁」。冬の庄内では、どの家庭でも必ず食べられる郷土料理です。フオアグラやあん肝とも並び称される脂の乗り切った大きなアブラワタ(肝臓)や、新鮮そのものでプリップリの白子も惜しげなく投入して作る滋味あふれる寒鱈汁は、庄内の冬には欠かせない郷土料理です。
味付けは、味噌仕立てが中心ですが、家によって酒や酒粕を加えたりもします。寒鱈のエキスが染み出た汁には余計な具材はあまり入れず、長ネギを加えるくらい。身も汁も、寒鱈そのものの旨味を楽しみます、でも、忘れてはならないのは岩のり。お椀によそった寒鱈汁には、たっぷりの乾燥岩のりをのせるのが、この地方の特徴です。