まさに能力満開!
猫も「ゆる〜く進化」しています。
猫の何げない日常シーンをとらえた写真家の岩合光昭さんの作品から、猫の進化を解説してもらいました。
「買い物に連れてこられた猫がショッピングカートの中や、人間の肩の上におとなしく乗っているのを時々見かけますが、昔の猫だったら逃げ出すのが当たり前。ペット化した現代の猫は、動物図鑑に載っている猫とはもはや別の習性を持つ生き物になっていますよね」
これは人間社会が豊かになったことによる、猫の「ゆる〜い進化」といいます。
「理由として大きいのは、猫の室内飼いと栄養バランスのとれたペットフードがセットになって普及したことです。餌をとるための狩りの能力も縄張り意識も必要なくなって、大人にならなくてもよくなった。むしろ子猫のままのほうが人間に可愛がられますしね」
体や尻尾を伸ばして警戒心ゼロの寝相で寝られるのも、店先で看板猫になるのも、要は人間が許しているから。また、犬とか小鳥とか天敵や餌になるべき動物たちと仲良くなる猫がいるのも、人間の意図的な介入があればこそ。
飼い主の人間に対しても、母猫か兄弟猫かのどちらかと見なすから、人間との関係が濃厚になるといいます。
「でも、見てマネるっていうのは、動物行動学的にはかなり高度なこと。猫が人間のしぐさをマネするというより、ご褒美があれば学習するので、2本足で立って魚がもらえたから立ち上がるようになったりするんでしょうね」
「屋根の上で色も柄も違う猫が等間隔に並んでる写真、ちょっと面白いですよね。どんな動物にもパーソナルスペースってあるんです。猫にも知らない猫とは最低限これぐらいは離れていたいっていう心理的距離があるという瞬間を、さすが岩合さん、見逃しませんね」
狩りの能力がさほど必要なくなって、その代わりにほかの能力がどんどん開花しているのがいまの猫、と加藤さん。
「ペットブームで人間が選ぶのは人に甘える猫、人懐っこい猫なんです。で、いろんな振る舞いをするようになったんだと思います。まさに能力満開!」
犬と違って、猫にはしつけも散歩も不要。一人住まいが増え高齢化が進む日本社会で、自由気ままな猫は21世紀最良のコンパニオンアニマルかも。
◎加藤由子さん 動物ライター「ヒトと動物の関係学会」監事。『猫とさいごの日まで幸せに暮らす本』『ネコの気持ちは「見た目」で9割わかる!』など著書多数。
『クロワッサン』916号(2016年1月10日号)より