考察『豊臣兄弟!』11話 危機の渦中で将軍・足利義昭(尾上右近)が示す大器! 小一郎(仲野太賀)と藤吉郎(池松壮亮)の機転が未来を繋ぐ
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
秀吉と秀吉がご対面!
藤吉郎(池松壮亮)と松永久秀(竹中直人)がご対面。
松永久秀が、かつて大河ドラマ『秀吉』(1996年)で豊臣秀吉を演じた竹中直人であるので、この冒頭の20秒間、たっぷり時間を取った場面に「秀吉と秀吉ですよ皆さん!」という大河ファンへの制作側からのサービスを感じる。
松永久秀は13代将軍足利義輝を襲撃した、いわゆる永禄の変の首謀者という疑惑がある人物である。
『豊臣兄弟!』第11話は知恵と度胸で生き延びる者たちが強いタッチで描かれた回だ。
まさかの愛の示し方
その前に、お市(宮﨑あおい)と浅井長政(中島歩)の夫婦について語りたい。
長政は信長の上洛戦に加わっていた。
足利義昭(尾上右近)が上洛を果たし将軍の座についたのを見届けて、供奉していた長政と信長はそれぞれの居城に戻る。その前に、義兄の信長に近江小谷城に立ち寄ってくれないかと持ち掛ける。
「お市も喜びまする」
長政の言葉に信長、微かにピリッときていないか。
(儂の妹を呼び捨て? 儂の前で夫ヅラする? 夫だから当然だが、それ言う?)
そんな思いが一瞬脳裏をよぎっているように見える。
笑顔を作り長政の気遣いを断る信長、代わりにお市への京土産を託す。
近江小谷城で、お市が兄からの土産包みを開いてみれば、美しい鏡。
喜ぶお市を前に、自分も似た鏡を買ってきたと言い出せないのが長政である。
「織田殿のような強き武将になれそうもない。すまんな」
猛々しさとは無縁の男、見ているこちらももどかしくなってしまう。
京土産の礼状をしたためるお市を、舅の浅井久政(榎木孝明)が咎める。
「なにげなく書いたことが、不都合となることがある」
政略結婚した姫の実家に向けた書状で巻き起こる不都合。これより10年後、織田信長と松平元康(松下洸平)の関係に暗い影を落とすことになる、築山殿事件を想起させる。
織田とお市の縁を絶とうとする久政の命令だろう、家臣が信長から贈られた鏡を火にくべる。
それを目にした浅井夫婦、とっさに焚火に駆け寄った長政が意を決して、手を火中に突っ込み掴み出す!
他に方法あるだろ! 画面に向かって声が出た。
長政から妻への愛の示し方は、まさかの根性焼きであった。
信長のように強い男として、お市にふさわしい夫として。
長政には織田兄妹がどう見えているのだ……信長なら鏡を火の外に蹴り飛ばすだろう。
しかし実際、お市の心を深く打ったようだ。細雪舞う中で抱きあう夫婦の姿が麗しいから、まあいいか。
お市さえ良ければいいやという気持ちである。
この先を思えばお市には一分一秒でも長く幸せを感じ、一回でも多く微笑んでほしい。
松永久秀の目論見とは?
ここからは冒頭の松永久秀の動きから、クライマックスの本圀寺の変に向けて述べよう。
松永久秀は織田信長のところに、領国である大和を引き続き治める許しを得るためやってきた。
将軍・足利義昭に取り次ごうと言う信長を遮り
「儂は、あなた様に申しておりまする」
差し出したのは茶入、付藻茄子(つくもなす)。
もとは室町幕府3代将軍、足利義満の所有品を、茶道具の収集家でもある松永久秀が入手したものだ。ここで信長に献上されたこの小さな茶入れは、一国に値する宝と扱われ数奇な運命を辿り、現在も大名物に分類される至宝として残っている。
久秀は9話(記事はこちら)の信長からの上洛を求める書状を受け取り、義昭を傀儡将軍と
見なして領国安堵を信長に求めたわけだ。
その目論見はうまく運んだ。信長の取り成しによって、永禄の変の首謀者疑惑を負いながら、第15代将軍義昭政権に与することに成功したのである。
だが、その目論見は義昭に読まれていた。
謁見し献上品を贈る久秀に応じた義昭は、にこやかに
「どちらが値打ち物じゃ? 織田殿にも渡しておるのであろう」
久秀だけでなく、傍に控える明智光秀(要潤)も瞠目する。
普段は柔和な物腰で怜悧さを隠しているが、その出し方にドキリとさせられるのだ。
驚きと焦りを押し隠した久秀は「無論、こちらでございます」と答える。
このあたりはちょっと面白い。値打ち物にも色々ある。値段の高い安い、歴史の古い浅い。
この時、久秀が義昭に何を献上したのかはわからない。売買時の価格に限れば、より高価なものかもしれない。
だが、室町幕府3代将軍足利義満の愛蔵品を15代将軍たる義昭ではなく信長に渡したとなれば、金銭の問題ではない。
久秀の様子から真実を見て取った義昭が「……わかりやすい男じゃ」。
兄、義輝に対しての「あるのは妬みであった」の台詞といい、この将軍義昭はなかなかに複雑な人物である。
それを察知した久秀は、本圀寺の廊下で偶然顔を合わせた小一郎に「公方様のことを、どうやら儂は見誤っていたようじゃ」と語る。
ことのついでに「堺は一筋縄ではいかんぞ。大和一国を治めるよりも難しいかもしれん。
せいぜい気張りや」と忠告して去るのであった。
そう、11話は堺(現在の大阪府堺市)という大きなキーワードも出てきた回である。
堺の商人 vs 小一郎&藤吉郎
堺と聞いただけでときめく。
安土桃山時代の豪商・呂宋助左衛門(二代目松本白鸚/当時六代目市川染五郎)を主人公とした大河ドラマ『黄金の日日』(1978年)の第一話冒頭、
「堺と称するこの町は甚だ大きく、且つ富み、守り堅固にして、諸国に戦乱あるも、この地に来れば相敵する者も友人の如く談話往来し、この地に於いて戦うを得ず。この故に堺は未だ破壊せらるることなく、黄金の中に日日を過ごせり。」(ポルトガル宣教師ガスパル・ビレラの書簡より)
このナレーションが印象深いのだ。
中世から港として栄えた堺は、会合衆(えごうしゅう/かいごうしゅう)と呼ばれる商人たちが治める貿易都市である。
フランドル人の地理学者アブラハム・オルテリウスの作成した地図にも描かれたこの港では、いわゆる南蛮貿易が盛んに行われた。
松永久秀の案内でこの町を訪れた小一郎&藤吉郎が、異国からもたらされた珍品名品にワクワクする様子が可愛らしい。クールな様子であちこちに目を配りながら、しっかり買い食いを楽しむ竹中半兵衛(菅田将暉)も笑いを誘う。
美濃攻めの後の上洛戦で大きな出費をした信長は小一郎&藤吉郎に命じて、この豊かな町に2万貫(約24億円)の軍用金と鉄砲300丁を要求したのである。
半兵衛「信長様は松永様を足がかりにして、この堺を手に入れるつもりなのです」
ナレーション「会合衆が支配下にあると世に示すのが信長の狙いでした」
会合衆の一人、今井宗久(和田正人)は織田家の将来性、伸びしろに目をつけるが、
津田宗及(マギー)をはじめとする他の会合衆は猛反発した。
彼らを説得する小一郎&藤吉郎兄弟の語り口は、うさんくさい投資商品を売りつける営業マンコンビのごとし。
藤吉郎「たかが2万貫で自治を許されるなら安いものじゃ!」
小一郎「しかもその2万貫で鉄砲300丁ほど買わせてもらいましょう!
さすればただ矢銭を払うよりも儲けになりましょう!」
室町幕府将軍の威光をちらつかせる織田家のやり口に舌打ちをする津田宗及。
各地の戦国大名と商いでつきあいはしても支配はされなかった町、堺。
それを崩してなるものかという矜持がある。
しぶとさこそ本懐!
津田宗及は信長が要求した鉄砲300丁をまるごと、敵対する三好三人衆に売りつけた。
信長が将軍義昭の威光を背に無理を通そうとするなら、信長と将軍を打ち負かそうとする三好に味方すればよいだけのこと。2万貫払わずとも鉄砲300丁の商いができるのだから。
三好三人衆は新たな武力を得て、将軍義昭を討たんと京に進軍する。
信長が昨秋に岐阜に戻っており、松永久秀が正月の挨拶に岐阜へ向かった隙をついた企てだった。
堺の今井宗久の屋敷で報せを受けた藤吉郎と竹中半兵衛。
今から岐阜に早馬を飛ばしても間に合わぬ、将軍の傍には小一郎がいる。
どうする──。
永禄12年1月4日(1569年1月30日)京六条、本圀寺の変(六条合戦)勃発。
足利義昭が御所とした本圀寺に、三好三人衆の手勢と斎藤龍興(濱田龍臣)が攻めよせる。
斎藤龍興! 9話で、信長は逃げてゆく龍興を「あやつはもうなにもできぬ」と言い捨てたが、実際にはこの本圀寺の変に、そしてこの先の織田勢との合戦にも加わったことが『信長公記』(太田牛一著・慶長15年/1610年成立)に記されている。
しぶとい。潔さではない、しぶとさこそ戦国武将の本懐である。
本圀寺では明智光秀が鍛えた兵と、蜂須賀正勝(高橋努)、前野長康(渋谷謙人)が三好勢を迎え討つ。
小一郎は義昭に奥の隠し蔵に避難するよう奨めるが、義昭は意外な行動を取った。
なんと、敵が押し寄せる中に身を晒し、大音声を上げたのである。
「儂はそなたらと共におる! 必ず味方が駆けつける! それまで共に戦うのじゃ!」
奇襲攻撃、多勢に無勢。
大将が姿を見せて鼓舞するとしないとでは違う、士気が上がる。
やはりこの義昭、おとなしいだけの人ではない。大器だ。
仲野太賀の笑顔の力
しかしどれだけ耐え忍んでも、じりじりと追い込まれる。
義昭はこれまでかと死を覚悟する。が、小一郎は強く説き伏せた。
「百姓はどんなに不作でも自分から死のうとはいたしませぬ。なぜなら、次の年こそ豊作になると信じておるからじゃ」
「公方様。豊作の世にしてくだされ。無様でも、生き延びてくだされ!」
小一郎の熱い説得は伏線となっており、足利義昭はどんな目に遭おうとも生きようとする。どのような生き様が描かれるのか、今後のドラマが楽しみだ。
それにしても、仲野太賀の人懐っこい笑顔はまことに効果的だ。
うさんくさい営業マン口調でも、少年漫画のような熱い説得場面でも、この笑顔で〆られると、ちょっと展開に無理があるのでは? という考えが吹き飛んでしまう。
義昭の自決を止めたものの、援軍が来るまでの時間をどう稼ぐのか。
この本圀寺が三好氏代々の信奉を寄せられた寺であると義昭から聞いた小一郎は、一計を案ずる。
山門を開き三好勢の前に現れたのは、頭には帽子(もうす)袈裟を纏い、手には数珠。
パッと見、高僧。いや、中身は小一郎!
「ご乱行はおやめくだされ。ここは三好家代々のご当主が敬われていた寺でございますれば、蔑ろにしては七代先まで祟られましょう」
「公方様には、ここからお移りになるとお約束いただきました。それまでは手を出さぬとお約束いただきたい」
ツラツラと口から出まかせが出てくる、このコスプレ詐欺師!
罰当たりだが命が懸かっている、御仏もお許しくださるだろう。
将軍の投降を待ちきれなくなった三好勢にもたらされた、織田勢の援軍が近づいているとの報。
三好が撤退した後に雪の中駆けつけたのは、堺で雇った侍を従えた藤吉郎と半兵衛だ。
弟は己を僧侶に見せかけて時を稼ぎ、兄は傭兵を織田軍勢に見せかけ助けに来る。
「兄者、よう来てくれた!」「お前こそ、よう持ちこたえた!」
抱き合って喜ぶ兄弟を見つめていた義昭が、明智光秀に問いかける。
「あのふたり、わしの物にできるか?」
小一郎の能力を認め、兄藤吉郎とふたり揃えばその力が最大限に発揮されるであろうことを考えての要求か。それとも、兄弟ですら命を奪い合う乱世において、このふたりの姿は眩しく、近くに置いて愛でておきたいものなのか。
だが木下兄弟を気に入っているのは信長も同じなのだ。小一郎&藤吉郎の存在が信長と義昭の対立に繋がったりしませんよね?
次回予告。
藤吉郎、また出世。京都奉行ですってよ。寧々(浜辺美波)と一つ屋根の下で暮らせる日は来るんですかね。お市に長女、茶々誕生! 藤吉郎が茶々を抱っこ……ウワァ……。
小一郎の前に現れた女性、慶(ちか/吉岡里帆)。
えーっどんな人なんだろう。この一瞬の映像ではまったくわからない!
12話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石 聖、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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主な参考文献:
谷口克弘(著)『織田信長合戦全録──桶狭間から本能寺まで』中公新書,2002年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年.