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『美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像』パナソニック汐留美術館──芸術家が夢想したさまざまなユートピア

青野尚子のアート散歩。今回は、未だ見ないけれどいつかたどり着けるかもしれない場所。建築家やアーティストが夢みた「ユートピア」を見つめる展覧会。会場では主に20世紀の日本の人々が目指したユートピアが紹介される。

文・青野尚子

ウィリアム・モリス著 ケルムスコット・プレス刊 『ユートピア便り』 1892年 TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館蔵
ウィリアム・モリス著 ケルムスコット・プレス刊 『ユートピア便り』 1892年 TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館蔵

未だ見ないけれどいつかたどり着けるかもしれない場所。建築家やアーティストが夢みた「ユートピア」を見つめる展覧会が開かれる。「ユートピア」とはイギリスの思想家トマス・モアの小説の題名だ。「どこにもない場所」を意味している。

会場では主に20世紀の日本の人々が目指したユートピアが紹介される。イギリスから産業革命と、それに続く手仕事への回帰「アーツ&クラフツ運動」が移入され、大正デモクラシー、第二次世界大戦などで揺れ動いた時代だ。そんなうねりの中、柳宗悦らは「民藝」運動によって民衆の暮らしの中の理想の美を説いた。関東大震災後には建築家や詩人たちが郊外アトリエや芸術家コロニーを提案する。

「ふるさと」に理想の「ドリームランド」を見出そうとした人々もいる。ドイツから来日した建築家、ブルーノ・タウトのバスケットは群馬の伝統的な手仕事である竹皮編によるものだ。宮沢賢治は地質学や宗教など幅広い知識を通じて人々に幸福をもたらすドリームランドの実現を願った。展覧会は戦後に理想郷を追い求めた人々のエピソードで幕を閉じる。文化活動家・井上房一郎は芸術や建築による都市の再生を目指し、当時、気鋭の若手建築家だった磯崎新に〈群馬県立近代美術館〉を依頼した。

ブルーノ・タウト「ヤーンバスケット」1934-36年 群馬県立歴史博物館蔵
ブルーノ・タウト「ヤーンバスケット」1934-36年 群馬県立歴史博物館蔵

ユートピアは遠い星のように手が届かないものかもしれない。でもだからこそ、その星を目指して歩いていきたい。そう感じさせてくれる展覧会だ。

『美しいユートピア 理想の地を夢みた近代日本の群像』

磯崎新 《還元シリーズ MUSEUM-Ⅰ(群馬県立近代美術館)》 1983年 磯崎新アトリエ蔵 (c)Estate of Arata lsozaki
磯崎新 《還元シリーズ MUSEUM-Ⅰ(群馬県立近代美術館)》 1983年 磯崎新アトリエ蔵 (c)Estate of Arata lsozaki

パナソニック汐留美術館 開催中~3月22日(日)

会場ではイギリスの社会思想家、ウィリアム・モリスの著書や宮沢賢治の水彩画、井上房一郎が関わった〈群馬音楽センター〉の図面なども見られる。

パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F) TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 10時~18時 水曜休(2月11日と3月18日は開館) 入館料一般1,200円ほか
  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1158号より

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