『「なむ」の来歴』斎藤真理子 著──言葉に鋭敏な著者の鋭さとユーモアを堪能
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
「なむ」とは韓国語で「木」の意味。「なむ」からできている本と深く関わってきた人生が紐解かれる。
本書は韓国文学の翻訳家、斎藤真理子さんによるエッセイ集。主に1990年に韓国に留学し、ビザの関係で帰国せねばならなくなって沖縄に移り4年間住んでいた頃につづったものと、2010年代後半からの翻訳家として多忙を極めるようになってきてからつづったものが収められている。
90年代のエッセイを読んで、ああ、斎藤さんはずっと斎藤さんなんだなあと思った。読書家で、聡明で、時間も空間も俯瞰できて、言葉に鋭敏なところとか。一冊の本から思索を広げ、さまざまな事柄と結び付けて分析していく視点の鋭さには背筋が伸びてしまう。
また、じつはユーモアもたっぷりの人だ。たとえば、韓国人が四角四面の正論を言う例として、コメディ映画の女性主人公が失礼な面接官に言うセリフを大真面目に分析していたりする(でもこれが実に明快で説得力がある)。また、〈「あなたに」の「タニ」だけ残った歌謡曲の話〉というエッセイも笑った。この諧謔味も、言葉に鋭敏で、いろんなことが俯瞰できる人だから生み出せるものだと思う。魅力を改めて堪能しました。
『クロワッサン』1158号より
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