にしん鉢/南部鉄器の鍋/茶袋/馬毛の裏ごし──昔ながらの知恵が詰まった、郷土料理のための調理器具
撮影・松村隆史(料理)、黒川ひろみ
にしん鉢
柳宗悦にも絶賛された会津ならではの民藝品
福島・会津地方に伝わる郷土料理、にしんの山椒漬を漬け込み保存するために作られた専用の陶器。会津本郷焼の特徴でもある“飴釉”が生み出す褐色の艶と、そのどっしりとした無駄のないフォルムは、民藝運動家の柳宗悦(むねよし)に「健康な仕事」と称賛されたほど。享保4年創業の窯元『宗像(むなかた)窯』によるにしん鉢は、1958年のブリュッセル万国博覧会でグランプリも受賞した。にしんを漬ける以外に、ワインクーラーや花器としてもその普遍的な用の美が楽しめる。
にしんの山椒漬(福島県)
【作り方】
身欠きにしん8本を水で洗い、頭と尾とヒレを除く。容器に米のとぎ汁400mlとにしんを入れ、冷蔵庫で半日寝かして臭みを取り、うろこをのぞく。鍋に醤油150ml、酢150ml、みりん150mlを入れ、火にかける。沸騰したら火を止め、液を冷ましておく。にしん鉢に山椒の葉を敷き、水で洗って拭いたにしん、山椒の葉を重ね、冷めた液を注ぐ。上に皿などで重しをし、3日間ほど冷蔵庫で漬ける。
南部鉄器の鍋
均一に熱が伝わって、旨みを逃さず煮込める
岩手県盛岡市と奥州市で作られる南部鉄器。昔懐かしい形の囲炉裏鍋は優れた蓄熱性をもち、鍋全体で均一に食材へ熱を伝えられるので、短時間でも中心まで柔らかく煮込める。その上、温度も下がりにくく、鍋ごと食卓に運べば食事の間ずっとあたたか。また、調理中に鉄分が溶け出し、不足しがちな鉄分も補える。なかでも、創業120年超の老舗『岩鋳(いわちゅう)』の鍋は、デザインも秀逸。さらりとした鋳肌で素朴ながらも美しく、使い込むほどに馴染んで味わいが増す。
ひっつみ(岩手県)
【作り方】
中力粉100gと水60mlをひとまとまりになるまでこねる。ボウルに入れ、蓋をして30分以上休ませる。ごぼう、にんじん、舞茸、長ねぎ、鶏もも肉各適量を食べやすい大きさに切る。鍋に水1L、醤油大さじ3と1/2、みりん大さじ4、頭と内臓を取った煮干し、ごぼうを入れて煮る。火が通ったらにんじんと鶏肉を加えて煮る。生地を2回折りたたみ、ちぎりながら入れる。舞茸、ねぎを入れて火を止める。
茶袋
洗って繰り返し使える、手縫いで作る麻袋
ほうじ茶で米を炊く「茶粥」がよく食べられていた和歌山県。南側ではその昔、各家庭で縫った茶袋で茶を煮出したり、出汁をとっていたそう。当時の形を再現して作ったこの茶袋は、清潔に保ちやすく丈夫な麻で作っているので、繰り返し活用できる。使い方も簡単だ。茶葉を入れて巾着のひもを引っ張り、袋の上部に1周巻いてひもの端をくぐらせて留める。袋ごと鍋に入れて火にかければ、手軽にお茶を煮出せる。使用後、さっと洗って干せばすぐ乾く。
ほうじ茶粥(和歌山県)
【作り方】
米1/2合をといでザルにあげる。茶袋にほうじ茶の茶葉3gを入れる。鍋に米と水450ml、茶袋を入れて蓋をし、中火にかける。沸騰したら弱火にして4分煮、茶袋を取り出す。再び中火にして沸騰させたら、木べらなどで鍋底から混ぜる。さらに沸騰したら弱火にし、吹きこぼれないよう蓋をずらして20分煮る。蓋をして火を止め、そのまま5分蒸らす。塩小さじ1/4を加えて混ぜ、好みで梅干しを添える。
馬毛の裏ごし
きめ細かく舌触りのいい仕上がりは、馬毛ならでは
檜の曲げ輪を山桜の皮で綴じ、手織りした天然の馬毛を張った裏ごし器。職人が減り、作れるのは新潟県内で『足立茂久商店』だけ。馬毛は金属の網より弾力性があり、適度にしなるので、食材を漉すときに力を入れやすく使い勝手がいい。その上、馬毛の表面の細かなざらつきが食材の余分な繊維を取り除き、きめ細かくなめらかに漉せる。金気も食材に移らないので、料理の繊細な味を守れると、プロの料理人や和菓子職人の愛用者も多い、最上級の一品だ。
きくらげの白和え(新潟県)
【作り方】
乾燥きくらげ5gを水で戻して5mm程度に切り、みりん大さじ1、醤油小さじ1〜2とともにフライパンで水分が飛ぶまで加熱する。木綿豆腐1/2丁を4等分にちぎり、水でぬらした馬毛の裏ごし器にのせ、木べらでこす。裏ごした豆腐を少し取り出し、みそ小さじ2を加え、よく合わせ混ぜて戻す。粗く砕いたくるみ10gと砂糖小さじ1を入れて全体を混ぜ、最後に冷ましたきくらげを加えて和える。
『クロワッサン』1151号より
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