涼やかな、夏の誘惑。白玉、ところてん、冷やし甘酒──ノスタルジックな甘味の名店4選
撮影・川上朋子 文・西村佳芳子
天野屋(神田)
夏の疲れを冷やし甘酒で癒やす
栄養を豊富に含む甘酒は、医者の少ない時代に重宝され、砂糖の代わりにも活躍。特に井戸水で冷やした甘酒は、夏の江戸の風物詩でもあった。弘化3年(1846年)、神田明神の参道を下り、中山道に出た場所にどぶろくの店として創業した『天野屋』。地下に糀室にぴったりの土室があり、甘酒を作ることに。周りには坂が多く、参拝帰りの人々は甘酒で体力を回復したという。米と糀だけで作られる甘酒は、夏の疲労回復にぴったり。冷やし甘酒とくず餅またはミニおでんとのセットもあり、風情ある店内で江戸気分を味わえる。
甘味処 初音(人形町)
もっちりとした白玉は職人の技
甘味処のおやつの名脇役である白玉だんごも、江戸時代には庶民に浸透しはじめていたという説がある。天保8年(1837年)に開店したこちらは、特に白玉のおいしさで人気を集める名店。コシを強くするために粉を厳選し、練りの作業を怠らず、もちもちと弾力はありつつも柔らかく、独特な食感に。数ある品の中でも、白玉を主役にあずきと合わせ、バニラアイスクリームを添えたクリーム小倉白玉がおすすめ。“特A級”の十勝産小豆で作るふくよかな粒あんと白玉だんごをアイスがつなぎ、三位一体となった味を楽しめる。
今菓子司 銀座凮月堂(銀座)
アートのように組み立てるクリームあんみつ
江戸時代末期に登場したとされるみつ豆に、あんこをのせたあんみつは人気の定番メニューだが、今、その進化系を食べるならここ『銀座凮月堂(ふうげつどう)』。伝統の甘味を今風に再解釈したデザートを昨年6月にリニューアルした喫茶室で楽しめる。洗練されたビジュアルのあんみつは、白と黒(黒蜜)の寒天、白と緑(抹茶)の白玉、球体にくりぬかれたこしあんなどを、アイスと黒蜜の甘みだけで食べるという大人向けの仕立てだ。すべてのパーツが美しく、一つ一つ丁寧に目の前の作業台で盛られていく工程に、食べる前から心ときめく。
浅草いづ美(浅草)
東西で異なるところてんの粋
ところてんの歴史は古く、起源は1300年前まで遡るが、庶民に親しまれるようになったのは江戸時代。当時は行商人が天秤棒で売り歩いたおやつで、砂糖が高価だった関東では酢醤油とからし、食材が集まる関西では黒蜜を添えるのが主流だったという。浅草育ちの店主は、幼少期に祖母が作ってくれた甘味のおいしさを伝え残すべく、選び抜いた素材で作り続けている。天草(てんぐさ)のほのかな香りと喉越しの良さが清涼感たっぷりだ。海苔とからしを加えた酢醤油で江戸風もよし、こくのある黒蜜で上方風を楽しむのもまたよし。
『クロワッサン』1145号より
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