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木内昇さんと風情豊かな「お江戸東京文学散歩」

江戸の市井の暮らしを描いた物語を数多く紡いできた木内昇さん。愛する江戸を描いた作品にまつわる場所を、今の東京で巡ってみた。

撮影・黒川ひろみ 構成&文・中條裕子

暮らしのすぐ傍に不思議が潜む江戸の風情を感じて

木内昇さん(作家)

『鐘ヶ淵』と奥浅草

縁起によると、待乳山は推古天皇3年に一夜のうちに湧現した霊山で、その時に金龍が山を廻り守護したとされる。身体健全、夫婦和合、商売繁盛にご利益があるとして、現在まで篤い信仰を集めている。古くから名所として知られ、多くの絵画や歌の題材となった。待乳山 本龍山(待乳山聖天)東京都台東区浅草7・4・1  TEL.03・387 4・2030 6時〜16時30分 浅草駅より徒歩10分。
縁起によると、待乳山は推古天皇3年に一夜のうちに湧現した霊山で、その時に金龍が山を廻り守護したとされる。身体健全、夫婦和合、商売繁盛にご利益があるとして、現在まで篤い信仰を集めている。古くから名所として知られ、多くの絵画や歌の題材となった。待乳山 本龍山(待乳山聖天)東京都台東区浅草7・4・1  TEL.03・387 4・2030 6時〜16時30分 浅草駅より徒歩10分。

江戸随一の景勝地は不思議譚のひそむ奥浅草

賑やかな場所のすぐ傍に狐狸妖怪が潜んでいる——そんな江戸の不思議譚にたまらなく惹かれる、という木内昇さん。中でも、自身が江戸を舞台にした小説を書く際にも参考にしているのが、大正から昭和にかけ活躍した作家・岡本綺堂だ。

参拝者は本堂に上がって聖天様へ大根をお供えし、心身の健康や夫婦円満、成功を祈願する。
参拝者は本堂に上がって聖天様へ大根をお供えし、心身の健康や夫婦円満、成功を祈願する。

「綺堂は浅草を舞台にして描くことが多くて。昔語りを物語の導入とし、江戸の頃の話が始まるのですが、彼は実際にその時代を見てきた記憶がある。当時の言葉使いも覚えているので、生き生きとした江戸弁を空気感もそのままに読めるのがいいんです」

築地塀の案内板には江戸の名残をとどめる唯一のものという記述が。
築地塀の案内板には江戸の名残をとどめる唯一のものという記述が。

そう語りながら木内さんが案内してくれたのは、奥浅草にある待乳山聖天。平坦な地が続く浅草周辺の高台にあるため、江戸時代にはここから隅田川を眺めることはもちろん、富士山や筑波山まで見晴らせたという。

広重の浮世絵にも描かれている築地塀は、江戸時代の建造物。
広重の浮世絵にも描かれている築地塀は、江戸時代の建造物。

「待乳山は浮世絵にもよく描かれていますが、女性を連れて、または女性同士で、登ったり月見をしたりする景勝地でした。今は埋め立てられてしまったけど、すぐ下を山谷堀が流れていたので川遊びの光景なんかも見られたのではないかと。岡本綺堂の『鐘ヶ淵』はこのあたりのお話です」

本堂脇からはかつて東に隅田川と対岸に広がる墨堤の風景が見えた。
本堂脇からはかつて東に隅田川と対岸に広がる墨堤の風景が見えた。

境内はぐるりと巡ることができ、現在は護岸整備などが進んで少し遠くなってしまったが、東側からは隅田川を望むことができる。少し足を延ばして、浮世絵に描かれた往時の風景を思い浮かべながらお詣りしたい。

「幕末の嘉永頃の古地図を持っているのですが、待乳山も載っていて聖天様と書かれています。地形が今とは変わっているけど、地図と照らし合わせながら回るのもおもしろいと思います」

木内昇さんと風情豊かな「お江戸東京文学散歩」

『岡本綺堂読物集 近代異妖篇』(岡本綺堂、中公文庫、858円)

名作『青蛙堂鬼談』の拾遺集ともいえる怪談・奇談集。『鐘ヶ淵』は鐘が沈んでいるといわれる伝説を持つ淵を、将軍の命により探索するため水中へと潜った若侍たちが遭遇した怪奇談。

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