本木雅弘さん「自分の理想に固執せずに、身を預けられたらと思います」【今会いたい男】
撮影・天日恵美子 ヘア・JUN GOTO(ota office) スタイリング・田中伸紀 文・黒瀬朋子
本木雅弘さんは「全身全霊」の人物がよく似合う
命を燃やし尽くすかのように、創作に身を捧げる。本木雅弘さんはそんな「全身全霊」の人物がよく似合う。最新作『海の沈黙』では孤高の天才画家・津山竜次を演じている。倉本聰さんが長年温めてきた物語で、本木さんにとっては初参加の倉本作品となった。
「オファーをいただいた喜び以上に、倉本さんの求めておられることに自分は応えられるだろうか、背負えるだろうかという思いがありました」
本作の大きな見どころは、竜次がかつての恋人・安奈と再会する場面。安奈を演じたのは小泉今日子さん。花の82年組と謳われたビッグアイドルだった二人。空白の時を経ての再会は、物語と現実が絶妙に重なり、胸を打つ。
「小泉さんとは32年ぶりの共演だったそうです。お互い16歳で歌手デビューし、同じ世界で苦楽をともにした同士。頻繁に会うわけではないですが、近況は耳に入る近しい距離にいました。小泉さんは若い頃から地に足のついた女性です。今も年齢に抗わず、その歳ならではの可愛らしさを持っていますよね。役を演じながら、熟成した小泉今日子を感慨深く眺めておりました(笑)」
義母・樹木希林さんにかけられた言葉
物語は、贋作事件の真相を解き明かしながら、「美」とは何か、誰が決めるものなのかという問いを投げかける。
「自分の中にある内面も含めた美の基準に、真摯に向き合うことが大事なのでしょうね。ただ私自身は10代から、他人の目に映る自分の姿を意識し、虚実交えながら自己を晒してきました。周囲が求めるイメージに自らを寄せていく作業をしてきたので、自分の本当の気持ちや、基準に向き合うことに実はあまり慣れていないんです」
それでも義母の樹木希林さんに生前「あなたもようやく負を活かせる歳になってきたわね」と言われたらしい。
「お芝居も人生も、成熟とは完成するということではなくて、自分の綻びをも味わいに変えていけるということですよね? そのためには理想に固執せず、ダメな部分も引き受けて、流れに身を預ける。そうすれば自ずと然るべき方向に導かれていくのかな。本当は大らかで気楽で機嫌のいい大人でいたいと思うのですが、厄介な自分にいつももがいているのが現状です(笑)」
『クロワッサン』1129号より
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