白馬で出棺、音楽葬に画廊葬…いまどきの心のこもったお葬式とは?
撮影・高橋マナミ ヘア&メイク・佐藤トモコ 文・神舘和典 撮影協力・森巖寺 開山堂
大人数で集うことができなかったコロナ禍があり、弔いのスタイルが変わっています。身内だけで行う少人数の葬儀がスタンダードになってきて、故人の個性や、喪主をはじめ遺族の思いを尊重したオリジナリティのある葬儀も増加中。
リクエストに応えてさまざまな葬儀を執り行っている「むすびす」代表の中川貴之さん。コロナ禍に母親を送ったピアニストの木住野佳子さん。心のこもった弔いとはどんなお葬式なのでしょうか。
地域や会社で行う儀式ではなく家族で送るスタイルが主流に。
木住野佳子さん(以下、木住野) 3年前、私の母が92歳で逝き、いい葬儀について考えさせられました。
中川貴之さん(以下、中川) 92歳はご立派ですね。3年前はコロナ禍のさなかでしたが、葬儀はどうされましたか。
木住野 告別式だけの一日葬を行いました。年齢的にお友だちやきょうだいの多くは先に逝かれていますから、少しの人数だけに声をかけました。斎場の建物はもともとレストランだったらしく、広い窓から陽の光が注いでいて。お経はお願いせず、私のCDのバラード曲を流して。空に旅立つような雰囲気で送ることができました。
中川 2000年代になり、家族葬をはじめ少人数で故人を送るお葬式が増えています。そして2020年に新型コロナウイルスが感染拡大して人が集まれなくなり、コンパクトなスタイルが主流になり、「家族だけで送る」という選択が可能になりました。
木住野 かつては、一度もお目にかかったことのない、たとえば友だちの親の葬儀にお声がけいただき、とまどったこともあります。亡くなったお顔をお葬式で拝見したときが「はじめまして」というケースもありました。
中川 お葬式には町内会や自治会のような地域の儀式という解釈もあり、大人数になりがちでした。あるいは会社関係のお葬式だと、親しくなくても、場合によってはあまり仲がよくない関係でも参列していましたね。
木住野 今お葬式はどういう形式があるのでしょう。
中川 主に3つです。1.お通夜と告別式を2日に分けて行う古典的な二日葬。2.告別式だけの一日葬。3.火葬だけの直葬。
全国的には今も、たくさんの人が参列する二日葬が主流です。都市部でも、故人の仕事柄職業柄、多くの人を呼ばなければならない場合は、二日葬です。一日だけだとその日に都合がつかない人もいるので。呼ぶのが少人数の場合は、一日葬が増えています。通夜と告別式は似た儀式を行うから一度でいいのでは、と。身内が少ない一人暮らしのお年寄りや、呼ぶ人がほとんどいないケースでは直葬も珍しくありません。
(コロナ以降、都市部を中心に葬儀は簡素化の傾向。)
2000年代に入りお葬式のコンパクト化が進んだ。コロナ禍には人が集まれなくなり、とくに都市部で身内だけで送るサイズの弔いが定着した。故人が子どもに負担をかけたくないという意識も働き、告別式だけを行う一日葬、火葬だけの直葬も増えてきた。
(簡単)
(豪華)
白馬で出棺、バンド演奏……。 個性的な演出のお葬式。
木住野 一日葬だと、遠方の身内も日帰りできるかもしれませんね。私の伯母のときは直葬でした。告別式がなかったので、すべてが終わってから連絡をもらい、寂しい思いをしたことを覚えています。生前かわいがってもらった伯母ですし、最期にお別れしたかった。
中川 限られた家族だけで弔うと、木住野さんのように、お別れしたくてもできなかったというようなことが起こりますね。すると、後日さまざまな人がお線香をあげに訪れます。だから、古典的な通夜と告別式をしっかり行ってけじめにするとお考えになる方も少なくありません。
木住野 中川さんのお話をうかがうと、お葬式は自由度が増してますね。
中川 今は演出もバリエーションが豊富ですよ。
木住野 たとえばどんな?
中川 喪主様の強い希望でしたが、都内の大きなお寺で、白馬の先導で出棺したことがあります。
木住野 すごい! 馬はどこから?
中川 喪主様が競馬場で手配してくださいました。
木住野 馬は扱いが難しいですよね。
中川 調教の方もいらっしゃいました。私たちも不慣れですが、馬も緊張して、いざというときに粗相してしまい、みんなで片づけて。そういうトラブルも含めて、ほかにはないとてもいいお葬式でした。あとは故人がバイクを愛していて、ツーリング仲間が出棺を先導したこともあります。
木住野 バイクで?
中川 はい。葬祭場から火葬場まで一般道を走ったので、火葬の予約時間に遅れないかとひやひやしました。
(こんな送り方も。葬儀のスタイルはさまざま。)
お葬式は、大切な人との別れだけではなく、近しい人たちが大切な人の人生をともに振り返り、思いを共有する日でもある。とくに故人が専門職だったり、趣味に熱中していたりした場合、故人らしい演出が増えている。
⚫︎斎場に設営された故人の〝最期の個展。
⚫︎白馬に先導されて斎場から出棺。
⚫︎ジャズバンドで盛大な音楽葬。
木住野 最近は、棺もおしゃれなデザインのものがありますね。
中川 今はさまざまです。故人が広島東洋カープのファンで、チーム公式コラボで作っている〝カープレッド〟の棺で弔われたこともありました。
木住野 音楽葬もありましたか。
中川 故人がジャズバンドのメンバーで、ジャズ葬を行ったことがあります。
木住野 お葬式で演奏したのですか?
中川 はい、大勢で。バンドはみんな真っ赤なコスチュームでした。
木住野 私はずっと音楽をやってきたので、斎場にグランドピアノを置いてほしい。生演奏で送ってもらえないかな。曲は「ダニー・ボーイ」がいいです。別れの歌なので。
中川 どなたかに演奏していただいて。
木住野 あっ、そうか、私のときは私がいないから、演奏できないですよね。
中川 なかなか難しいですね。
木住野 それならば、誰にも面倒をかけないように、少人数の一日葬がいいかもしれません。
中川 アーティストや芸能人の方にも直葬は増えていますよ。
木住野 そうなんですか。
中川 ご遺体は家族だけでシンプルに送って、後日スタッフやお友だちやファンの方々がお別れ会を行うケースが増えています。
木住野 それは私には難しいかな。私の演奏しているジャズの場合、一人で会場に聴きにきてくれる方がほとんどなんです。ご高齢のリスナーも多く、私と一緒に年齢を重ねています。
中川 音楽家の方に限らず、何かしら専門の職に就いていた方は、その仕事に携わっている写真や映像で演出をすることも多いです。
木住野 結婚式のように?
中川 はい。お葬式は別れの儀式ですが、故人がどんな人生を送ってきたかをみんなで振り返る日でもあるからです。いなくなって悲しむだけではなく、こんなに素敵な人だったんだ、とかみしめて、思い出を共有する。皆さん、感情を抑えられなくなります。故人と面識のない私たちも涙を抑えられなくなるほどです。
木住野 私がピアノを演奏する音と映像を流して、ラストでカメラを向いて「ありがとう」って言うとか。
中川 そんな映像を見たら、皆さん、号泣されるのでは。
(棺、霊柩車にも個性やバリエーションが。)
葬儀そのものの演出だけでなく、棺やオプションでも今はさまざまな演出や装飾が選べるようになった。棺は火葬とともに燃えてしまうが、考え方を変えれば、故人にとっては最期の寝床。そんな思いもあり、故人が喜びそうなものをチョイス。
⚫︎棺は最期の〝ベッド。寝心地よくしたい?
⚫︎最期までカープ愛を貫く棺。
⚫︎霊柩車の主流は黒塗りの洋型。
葬儀社との打ち合わせは必ず複数人で行う。
木住野 お葬式に起こりがちなハプニングはありますか。
中川 故人の恋人が押し掛けることはありますね。相続の受け取りを主張するという目的もあるのでしょう。私たちスタッフもある程度心構えをして、お葬式を見守っています。ご家族が察知していて、見張りを頼まれることもあります。
木住野 最期はきれいに送ってあげたいし、送られたいですね。
中川 きれいということで言うと、今はスマホで頻繁に撮影しているので、みなさん、遺影が美しくなりました。
木住野 以前は遺影になる写真を探すのが大変だったといいますね。母の遺影は90歳のときにスマホで撮影して、私が思い切り美しく加工しました。
中川 白装束ではなく、故人の好きだった服で、お化粧もほどこしてお送りするようにもなりました。エンバーミングはご存じですか? 故人の体液を抜いて専用の保存液を注入すると、ドライアイスなしで1カ月くらいは生前のような美しさを維持できます。
木住野 コストはどのくらいですか。
中川 20万円くらいでしょうか。希望する方は少しずつ増えています。
木住野 ここで中川さんに教えていただいたような技術や演出に対応できる葬儀をきちんと取り仕切ってくれる葬儀社は、どう探せばいいのでしょう。
中川 今はインターネットであたることが多いかもしれませんが。直接電話することをお勧めします。電話の応対の悪い会社は、斎場での対応も良くありません。
木住野 母は私に負担をかけたくないから、互助会で葬儀の積み立てをしてくれていました。ところが対応は最悪でした。呼び出されて足を運ぶと、葬儀社の人がいないこともあったり。積み立てていたのに相場の3倍以上だったことも後でわかりました。
中川 互助会もさまざまですが、契約のときにきちんと説明されないケースも耳にします。途中解約はできないと思い込んでいたり、積み立てしているから葬儀にはそれ以上お金を払わなくていいと思っていたら、高い請求金額を提示されて驚いたり。葬儀社もさまざまです。身内が亡くなり平常心でないので、必ず複数人で依頼し打ち合わせするようにしてください。
木住野 実はあまりにも腹が立って、私、声を荒らげてしまいました。
中川 そういう体験は木住野さんだけではないと思います。不必要なオプションを強引に勧めてくる葬儀社もあると聞きます。お葬式は遺された方々の気持ちで行う儀式。故人への感謝の心を大切に、自分たちには何が必要なのか一つ一つ判断することが重要です。
『クロワッサン』1127号より