あらゆる食品の中でも栄養バランスに優れたキウイフルーツ。 毎日の摂取を続けることで、生活習慣病の予防・改善に。
写真・文 斎藤理子
より高品質で美味く栄養価の高いキウイを作るために、ニュージーランドではさまざまな研究機関が日々詳細な分析や研究を重ねています。また、オークランド大学による、栄養素の分析とその効果の研究も進んでいます。産学が連携し、きちんとしたエビデンスを作り上げていくことで、ただ美味しいだけではないキウイの奥深い魅力が発信されています。
キウイの品質向上や品種改良に取り組む 〈キウイフルーツ・ブリーディングセンター〉。
高品質のキウイをより多く生産するための研究をしているのが、〈キウイフルーツ・ブリーディングセンター〉。ゼスプリ社とニュージーランド国営研究機関のプラント&フードリサーチ社の合同出資で設立されたジョイントベンチャーです。ここには10万株を超える雌の苗木があり、700人以上の科学者が研究に打ち込んでいます。キウイの研究をしている科学者のアマルディープ・ナス博士に話を聞きました。
「この研究所のモットーは、〈more, better, faster〉。もっといいものをもっとたくさん、早く開発するのが目標です。最先端の技術を駆使して交配の研究をし、新品種と新しい味を追い求めています。遺伝子組み換えは絶対にやらず、伝統的な交配方法で改良に取り組んでいます」。
新しい品種の親木作りに5年、種子のスクリーニングに5年、クローン試験に5年、さらに商品化にも5年かかり、実際の販売までには最低20年の歳月がかかるそう。味や栄養素の改良のみならず、収穫量のアップや収穫までの期間の短縮化の研究もしているとのことで、生産者と消費者が共に満足できるキウイ作りがここで科学的に探究されています。
キウイの品質管理のために、 成熟度や糖度などを調査し評価する〈ヒル・ラボラトリーズ〉。
キウイのシーズン中、1万5000個〜2万個のサンプルチェックをして、外観、香り、味、テクスチャーなどを分析するのが、独立系の〈ヒル・ラボラトリーズ〉です。サンプルは、常時モニターされているGPSを装着した作業員が収穫し、他の園地のものとは混ざらないようにするため、どこの園地のどのブロックで採れたものか正確にわかるそう。それをここで検査し分析します。
重さをひとつずつ計り、表面の状態や硬さは針を刺しコンピュータでチェック。専用機器で色を測定し、グリーンキウイは肉眼で種を観察し黒くなっている度合い(黒いほど完熟している)を確認します。さまざまな検証がされる中、味の評価のために一番大事なのが、キウイから水分を完全に取り除いた〈ドライマター〉というものを作る作業。最初に計量した重さに対し、完全乾燥させた部分の重量のパーセンテージが大きい方が濃厚で美味しいキウイなのだそう。完全に乾燥させて残った部分はキウイそのものの旨味が凝縮されているので、個体による成熟度や純粋な味の違い、栄養成分などがわかります。詳細にチェックされた結果は、ゼスプリにフィードバックされ、それによって高評価のキウイは高額でゼスプリに買い取られるそうです。
さまざまな臨床実験によって検証される、 栄養源としてのキウイの健康価値。
ゼスプリ本社でイノベーションマネージャーを務めるポール・ブラッチフォード博士は、キウイのキーワードは〈健康〉だと言います。
キウイが健康にどのような貢献するかを実証し、それを発信していくことでブランド力のアップにつなげる研究をしています。
「1個で不足しがちな食物繊維が補えるグリーンキウイは、アクチニジンというタンパク質分解酵素の活性が高いのが特長。食べ続けることで快便を維持でき、腸内環境が整います。サンゴールドは1個で1日に必要なビタミンCを摂ることができ、活力アップや免疫機能のサポートをしてくれます。最近登場した果肉が赤いルビーレッドは、ポリフェノールの一種のアントシアニンが豊富。抗酸化作用が期待されます」。
(ルビーレッドは4月〜5月中旬頃までの販売)
キウイは、摂取後血糖値の上昇が穏やかな低GI(グリセミックインデックス)でもあると、ブラッチフォード博士。博士はオークランド大学と連携して研究を進めているとのことなので、オークランド大学の研究者にもレクチャーを受けました。
オークランド大学の人間栄養学科で、〈キウイによる代謝の健康効果〉を研究しているのが、ジェニファー・マイルズ・チャン博士。食事、健康、病気の予防の関連を確立するため、検証実験を行なっています。
現在アジア圏内では2型糖尿病が蔓延している現状があるそうですが、それはアジア人は肥満ではなくても内臓脂肪が多い傾向にあることに関連していることがわかっているとのこと。欧米人の肥満は皮下脂肪が多いケースがほとんどですが、アジア人は体格が小さいこともあり痩せていても内臓脂肪が溜まりやすいのだそうです。
マイルズ・チャン博士は、低GI食品であるキウイに注目。食前にキウイを食べると血糖反応が低減すること、グリーンキウイとサンゴールドキウイを8週間食べ続けたら血圧が下がって安定すること、12週間食べ続けると血中脂質が改善し腹囲が減少したことなどが治験の結果明らかに。キウイの摂取が食後のエネルギー代謝に与える影響を解明しつつあります。
アンバー・ミラン博士は、オークランド大学農業研究所のシニア研究員。キウイを食べると体にはどのような影響があるのか、特にキウイと胃腸との健康について研究しています。
「世界人口の60%が胃腸の不快感に悩まされています。欧米諸国では成人の10〜15%が便秘で、それによる腸内フローラの乱れは脳の機能にも影響を及ぼします。これを〈腸脳相関障害〉といい、生活への質の悪影響は多大。腸脳相関のメカニズムはまだはっきりとはわかっていなくて、治療法はなく対症療法のみなので、食生活が非常に重要になってきます」。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方をバランスよく含むキウイを摂取することで、便秘や胃腸の不快感を改善することが解明されつつあるとミラン博士。サプリや薬を飲むよりも、自然のものを丸ごと食べる方が、体への負担も少ないと言います。1日2個4週間食べ続けることで、便秘が改善されたという治験結果も。最終的な研究結果はこれからですが、大量の治験を重ね、キウイが腸内環境改善に効果があり腸脳相関にも大きく影響することが解明されつつあります。