都心から離れた焼き菓子工房、店舗を持たないドーナツ店。ふたりの店主が選んだ独自の営業スタイル。
撮影・馬場わかな 文・松本昇子
都心から離れた場所で焼き菓子工房『SUMIBAKESHOP(スミベイクショップ)』を営む山中さよこさん。店舗を構えずオーダーのみで注文を受けるドーナツ店『MYPICNIC(マイピクニック)』を主宰する山田千佳子さん。
現在の営業スタイルを選んだ理由や、これからの展望について語り合ってもらった。
山田千佳子さん(以下、山田) 私が『MY PICNIC』を始めたのは、コロナ禍がきっかけです。以前勤めていた喫茶店が閉店し、自分ひとりで内省する時間が増え、やりたかったことをやらないと後悔するかなと思って。
山中さよこさん(以下、山中) オーダー注文のみという方法を選んだのはなぜですか?
山田 たくさんの選択肢のひとつというよりは、その方法しかなかった、というほうが正しいかもしれません。自分ひとりで、できる範囲のことをやろうと。ミニマムなやり方だったらできるかなと思いました。山中さんは?
山中 『SUMI BAKE SHOP』は昨年の1月にオープンしましたが、その前からひとりでオンライン販売を始めていたんです。緊急事態宣言が発令され外出できないというような時期でした。結婚を機に夫の実家がある相模原に戻ってきて一旦はアルバイトをしていましたが、その店も休業してしまい、家にいなきゃいけないんだったら、自宅工房でお菓子を作ろうと思って始めました。
山田 そこからこんなに素敵なお店をオープンされて。私もお店を構えたいなという夢はあるけれど、どうやったらいいかわからないんです。
山中 私も最初はわかりませんでしたが、縁があり先にポンッと空き物件の話が舞い込んできたんです。そこからはどんどん話が進んでいって。私の場合は物件ありきでしたね。
山田 コロナ禍で、その時は飲食店は大変な時期でしたよね。オープンすることに不安はありませんでしたか?
山中 不安でしたよ。それこそオープンが2021年の1月10日だったんですが、その2日前に2度目の緊急事態宣言が発令されて! 誰も来てくれないかもと思いましたが、そうなったらここを大きな工房と考えて、オンライン販売に力を入れればいいやと思って。私には2つの選択肢があるんだから、実店舗に人が来なくても、オンラインを強化しようと思っていました。
山田 すごくポジティブですね! ドーナツだと、オンライン販売もなかなか難しくて。その日のうちに、できれば夕方前に食べてもらいたいんです。
山中 鮮度が命ですもんね。
山田 揚げたてが一番おいしいんです。日持ちするならいいけれど……本当にどうやればいいかわからない(笑)。
山中 できたてをいただける場所があったらうれしいです!
山田 本当は、揚げたてをそのまま渡したい。それを実現するにはどうしたらいいんだろう?ということは、常に考えています。そのために配達の時間を計算したり。ただ、買ってくださった方がすぐに食べてくださるとは限りません。だからしつこいけれど、すぐに食べてと言っちゃいますね。
山中 その気持ち、わかります。自分が思うベストのタイミングで食べてほしいですよね。
山田 お母さんが夕飯を作って、家族に冷めちゃうから早く食べてという気持ちに似ているかもしれません。ちょっとウザがられる感じ(笑)。でも、揚げたてで温かい時は本当においしいので、一度何かの機会にでもやってみたいなと思います。
山中 イベントなどで試してみるのもいいかもしれませんね。
それぞれの特徴を生かして生まれた営業スタイル。
山中 山田さんは現在のドーナツにどうやってたどり着いたんですか?
山田 ずっと家族のためにおやつとして作っていたんです。生地をどの程度混ぜたらしっとりするか、などは作っているうちにだんだんと習得しつつ。ラッキーなことに料理家の友だちも多いので、試食してもらってアドバイスをもらったりして。
山中 わあ、おいしいドーナツが食べられて、お子さんは幸せですね。
山田 どうだろう、そうでもなかったと思います(笑)。山中さんは?
山中 味の組み合わせやハーブの使い方、ワインとの食べ合わせを『Organ』で勉強させていただいて。今の店でもワインを提供できるようにしています。ケーキや焼き菓子に関しては独学で、製菓学校などには通っていません。好きで飲食店勤務時代から店のケーキを作らせてもらっていて、そこから改善して自分なりのレシピがじわじわできていった感じです。