医師に聞く、体に負担をかけない食べ方のコツ。
文・韮澤恵理 イラストレーション・松元まり子
体を動かすには、3つの回路がある。
疲労回復の特効ビタミンや栄養素、食材が話題になりますが、基本はきちんと食べること。食べたものはエネルギーや、体の再生材料になりますが、不足しても余っても、疲れたり、太ったりします。
体を動かすエネルギーを作るのに、3つの回路があることをご存じですか? 最初に発動するのが、炭水化物に含まれる糖質が血糖として細胞に届き、エネルギーになる「解糖系」です。
糖質が足りないとたんぱく質をアミノ酸に分解し、さらにブドウ糖として利用する「アミノ酸回路」が働きはじめ、それでも足りなければ脂質を中鎖脂肪酸、ケトン体と変化させてエネルギーを作る「ケトン体回路」が起動します。
(食べたものをエネルギーに変える3回路)
●point
最もシンプルな回路。適正な量の糖質でエネルギーを作るのが理想。糖質を摂りすぎると脂肪に変換。必要に応じてエネルギーに。
●point
糖質が不足したときに、たんぱく質を分解してエネルギーを作る。たんぱく質の摂取量が足りていれば問題ないが、不足すると筋肉が減り、血液も劣化。
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最も複雑な回路なのでエネルギーが必要。体脂肪を燃焼できる場合はダイエットに有効。しかし、先に筋肉や血液が使われて筋力低下が起きたり、エネルギー不足で疲れることも。
体に負担が少ないエネルギーの摂り方は?
糖を使ったエネルギーづくりはシンプルで、体の負担が少なく、筋肉や血液、細胞膜などを作る、たんぱく質や脂質を減らさないですみます。けれど、炭水化物を摂りすぎると血糖値が上がったり、体脂肪に変わって肥満の元になるため、ケトン体回路を働かせる糖質オフが注目されました。
脂質からエネルギーを得る食のスタイルで、血糖値が上がりにくく、体脂肪も燃やせると人気になったのです。
気をつけたいのが、2番目のアミノ酸回路。糖質が足りないと、実は、たんぱく質もエネルギーとして使われます。筋肉や血液の材料になるたんぱく質が足りなくなると、筋力低下や血液の質を落とすことにもなりかねません。
これを理解して、糖質を適量摂らないと、かえって疲れやすくなってしまいます。
炭水化物、たんぱく質、脂質のバランスを守る。
直接エネルギーとして利用されるのは炭水化物、たんぱく質、脂質の3つの栄養素です。これらは摂取量の比率が大切で、炭水化物が50〜70%、たんぱく質が10〜20%、脂質は30%を上限に摂るのがいいとされています。筋肉を増やしたい人や維持したい人は、ややたんぱく質を多めにします。
比率はエネルギーで決まります。炭水化物とたんぱく質の1g4kcalに対し、脂質は1g9kcalと覚えてください。
(5大栄養素の役割分担。)
●炭水化物
穀物やいも類などに多く含まれ、糖質と食物繊維からなる。もっとも簡単にブドウ糖になり、エネルギーとして使われるが、摂りすぎると残りが体脂肪として蓄えられる。摂取エネルギー量の50〜70%が標準的とされている。1gが4kcal。
●たんぱく質
肉や魚、大豆、大豆製品、乳製品などに多く含まれる。筋肉や内臓と同じ性質の栄養素。アミノ酸に分解され、体の材料になる。糖質が不足したときにはアミノ酸から糖が作られる。摂取エネルギーの10〜20%を目安に摂るといい。1gが4kcal。
●ビタミン
直接エネルギー源になるのものではないが、体を正常に維持するために必要。体という機械をうまく動かすための潤滑油のような存在。水溶性、脂溶性に分けられ、多くの種類がある。不足しがちな成分だけに、必要量を食事から摂る努力を。逆に過剰摂取も問題。
●脂質
植物油やバター、肉や魚、大豆などに含まれる油脂。エネルギー源として利用されるほか、体内で作れない必須脂肪酸が細胞膜やホルモンの原料になるので、適量摂りたい栄養素。摂取エネルギーの20〜30%を目安に摂るといい。1gが9kcal。
●ミネラル
無機質とも呼ばれる栄養素で、ビタミン同様、体を円滑に維持するために必要。カルシウム、カリウム、鉄、マグネシウムをはじめ多くの種類がある。不足すると健康に支障があるけれど、摂りすぎにも害があるので、サプリメントなどは慎重に。
ビタミンやミネラルも疲れない体の味方。
健康な体を維持するには、3大栄養素だけでは不足。体を動かしたり、再生するのを助けるビタミンやミネラルも欠かせません。さらに、6番目の栄養素といわれる食物繊維は腸内環境を整えたり、栄養素の吸収を穏やかにし、病気を防ぐ大切な成分です。
いろいろな食材を食べたほうがいいのはこのためです。ビタミンやミネラルの不足が不調や疲れの原因になっている人も少なくありません。ダイエットばかり考えず、必要な栄養素が摂れているか、見直してみることが大切です。
『Dr.クロワッサン 免疫力を強くする、疲れない体のつくり方。』(2020年6月26日発行)より。