「非日常で幸せを味わう」。ヤマザキマリさんの人生を支える決まり。
撮影・青木和義 イラストレーション・ヤマザキマリ 文・一澤ひらり
- 人生を支える決まり - 非日常で幸せを味わう。
地球の広さを自覚できる旅。コロナ禍も己を掘り下げる好機に。
地球に「生きてていいよ」と言われているような、幸せな感覚になる。それが旅の魅力、とヤマザキさん。旅に出ると、自分が生きている地球のものすごい広さを自覚できるからだという。
「仕事とか、しがらみのある場所に私たちは縛られて生きていますけど、そこだけが生きている世界になってしまうと息苦しくなってきますよね。旅は自分が一切誰でもなく、言葉も通じなくて、食べているものも生活習慣も違う場所に身を置くけれど、自分も一緒に地球の中にいるんだなっていう感覚に浸れる。そのときが幸せなんです。だから旅に駆り立てられますね」
とはいえ、新型コロナの自粛下で旅には出られなくなってしまい、ステイホームを余儀なくされているが。
「思いもかけず物事を掘り下げられる時間になりました。本をたくさん読んだし、映画を観たし、考えたし。ふだんの私なら忙しくてできなかった。日頃いかに大事なことを後回しにしてきたんだろうって思わざるをえませんでしたね。非日常は自分のことがよくわかるいい機会です。熟考できる時間を持てたことは、逆説的ではあるけれどコロナ禍で得られたことかも」
なかでも以前から夫に「マリと考え方がよく似てる」と勧められながらも、手に取れずにいた本を読めたことは大きな収穫だった。それはエドガール・モランというフランスの思想家が書いた『意識ある科学』『祖国地球』の2冊。
「ただでさえ新型コロナで気持ちが騒めいているし、情報過多で何を信じていいかわからない。これは自分でちゃんと物事を考えられるようにしなければと思って、モランを読んだんです。2冊ともさくっと読める本ではありませんが、大事なことがたくさん書かれています。『祖国地球』は大雑把に言うと、物事は地球規模で考えないと解決しない。それを些末に区切って専門家がどうのこうのと言ったところで何も始まらないっていうことなんですよね」
新型コロナに対しても多元的に物事を捉え、地球運命共同体として世界情勢を見ていかないと解決策などないし、滅びへと向かっていくことになりかねない。モランを読むことで大きな視座を得たように思う、とヤマザキさん。
「いま巷には怒る要素が多いですよね。仕事を失うとか、夫が毎日家にいてイライラするとか。怒りってあまり好意的には受け止められないけれど、怒りを昇華させていいエネルギーに変えていけばいい。そのためにどうするか?今回のパンデミックによって、いま人間の、似非(えせ)ではない、本当の知性が試されているような気がするんですよね」
ヤマザキマリ(Mari Yamazaki)
漫画家、文筆家。1967年、東京都生まれ。『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞、手塚治虫文化賞短編賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書に『地球生まれで旅育ち』(海竜社)など多数。
『クロワッサン』1027号より
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