【後編】朝から晩まで楽しめる、おいしい奈良ごはん。
撮影・青木和義 文・小我野明子
[鮨處WASABI]小ぶりな見た目も麗しい、品のある熟成鮨。
鮨職人の父に憧れ、自然と父が営む鮨店を手伝うようになっていたという、あだち真緒さん。独立後は奈良の東生駒で現在の前身となる店を開業した。やがて尊敬する銀座の鮨職人の影響で、熟成鮨の魅力に開眼。一口で上品にいただける小ぶりなサイズ感など、父の教えを受け継ぎながらも自らのスタイルで鮨に向き合う、現在の店へと行き着いた。大きなケヤキの一枚板カウンターのほか、県産の吉野杉や桧をふんだんに使った店内は、凜とした雰囲気のなかにも、どこか親しみが感じられる。それはまるで、あだちさん自身がまとう空気そのもの。「鮨を握るのが大好き」と丁寧に仕込まれたネタを握り、腕を振るってくれるその姿を見るのも、この店のごちそうのひとつだ。
すしどころわさび●奈良市林小路町39 ☎︎0742・24・3900 11時~14時、16時~21時 不定休 夜は鮨12貫 4,800円、季節の一品3種・鮨8貫7,300円などが。
[そば切り 百夜月]石臼挽きの自家製粉、極上そばをモダンな空間で。
福井の丸岡や大野、岡山・蒜山、群馬・赤城など、季節にあわせて厳選した玄そばを、店主の漁野博友さんが自ら石臼挽きで自家製粉。さらに、そば本来の味や香りを大切にしながら、手際よく手打ちする。そんな逸品を、立ち寄りやすいガラス張りのモダンな空間で楽しめるこの店は、県外のそば好きにも知られる人気店だ。そば本来の魅力を味わいたいなら、まずはざるそばから。二八、十割、手挽き(1日限定10食)から好みを選び、カツオ出汁が心地よく香るつゆでつるつるっといただく幸福を堪能できる。もうひとつの看板がぶっかけで、定番のおろしやとろろのほかに「季節のぶっかけ」(5月より)も登場。鴨のそば粉焼きなどの一品メニューもあり、そばに合う焼酎、日本酒ももちろん豊富に揃う。
そばきり ももよづき●奈良市中筋町38 ☎︎0742・24・5158 11時30分~14時30分、17時30分~19時30分(LO) 売り切れ次第終了 火曜夜、水曜休(祝日の場合は翌日)
[アコルドゥ]一皿ごとに驚きと感動の世界が広がる、ドラマチックな食空間。
ここは東大寺の旧境内。近くには美しい庭園があり、遠くに若草山を望むことができる。ところが敷地内に一歩足を踏み入れると、空間ががらりと転換。モダンな建築の出現に、驚かされる。「歴史、文化、伝統の上に成り立っているこの場所で、未来を感じる環境を作りたかった」と、オーナーシェフの川島宙さん。宇宙船のようなキッチンなど、まるごとがその世界感を表現している。一流ホテルやレストランでの経験はもとより、スペイン・バスク地方の世界的レストラン『ムガリツ』で大いなる影響を受けた川島シェフ。奈良・富雄のレトロビルで始めた『アコルドゥ』は、建物の老朽化でやむなく閉鎖したが、その後も大阪で『ドノスティア』、奈良・東生駒で『アバロッツ』を成功させた。そして2016年12月の『アコルドゥ』再スタート。「これまでを踏まえつつ、より進めていく」と、意欲的だ。例えばこの日の皿に登場した〝大和まな〟は、奈良で伝統的に作られてきた野菜。食べずに切ってしまうのが常識だった根の部分をあえて前面に出し、食感や力強い味わいを楽しませる。さらにオリーブとパンで「土」を作り、食材が生まれた土地に思いを馳せる、というユニークな演出を加えた。そんな料理はもちろん、店を彩る全てのものにきちんと意味がある、と川島シェフ。洗練された食事と共に供される、劇場体験のようなひとときを。
奈良市水門町70・1・3・1 ☎︎0742・77・2525 賚12時~13時(LO)、18時~19時(LO) 月曜休(不定休あり) ディナーのコースは1万3000円。今後は1組のみの宿泊も展開予定
『クロワッサン』947号より