今回は、教える側だった彼女が、あまり経験のない魚料理を日本で学ぶという内容だ。本書の英語版はまだ出ておらず、日本での出版のための書き下ろしだ。
築地でマグロの競りを見学し、場内でスシ・ブレックファストを食べ(ここでちょっとした事件が起こる)、寿司アカデミーで活アナゴと格闘する。〈アメリカでは、食べ物はめったに動かないのだ〉
彼女を通じて日本人も自国の食文化を改めて知ることができる。昆布を出汁から上げる時に木の菜箸はだめ、って知ってました?
本書の取材時期は2018年10月で、築地市場の最後の日々と豊洲の開場と重なった。築地のガイド役の男性と、フリンさんとの会話が胸を打つ。並んで隅田川を眺めながら、寂しくなりますね、と問う彼女に男性は言う。〈「悲しいですよ。でもね、ここをあなたに見せることができてよかった」〉
寿司学校での授業の合間に、近くの神社にある富士塚(富士山から運ばれた溶岩や土で丘を築いたもの。江戸時代に信仰の対象とされた)に登るフリンさん。高さ12
mの山頂で思いがけず開けた視界に感動し、記す。〈冒険や新しいことにチャレンジしたいのであれば、チャンスを手にして、努力することで、きっと報われる〉
「私がこの本で最もシェアしたいのは魚の知識ではありません。今は特に女性も多くのキャリアが持てる時代。自分が興味を持てることがあったら一歩踏み出してみること。それで見え方が変わり変化が起き、人生が変わるのです。『ロッキー』という映画を観たことがある? ロッキーはボクサーとしての成功を目指し努力を始めます。彼は最初の試合では勝てません。でも大切なのは、何かを始めて自分が変わることなの」
外からやってくる変化にも柔軟であれ、とフリンさん。本書には両親との思い出、そして訪れる変化について記された章もある。
「築地市場も移転の時期を迎えたように、人生にも変化が起こるもの。受け入れ、何かを学んで次に進みましょう。豊かな人生のために、Don’tbeafraidtochange(変化を恐れないで). それが私からのメッセージ」