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【紫原明子のお悩み相談】彼とすぐに喧嘩になってしまうし、セックスにも満足できません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回はセックスレスの彼との付き合い方に悩む女性からの相談です。

<お悩み>
紫原さんこんにちは。いつも連載を楽しみに拝見させていただいています。
思いやりに溢れ、冷静に状況を分析しながら、かつこれまでの人生の奥深さを感じさせるような紫原さんの回答に、読むたびに心が温かくなります。
私には付き合って1年半の、結婚を前提に考えている彼氏がいます。
彼氏は自分に自信があり、人生に肯定的で、思ったことを真っ直ぐ伝えられる人です。
私は反対に、自分に自信がなく、思ったことを中々口にできません。
そんな正反対の性格なので、3ヶ月に1回のペースで大きな喧嘩をします。喧嘩をするときは、大体彼がキツイ(彼はそう思っていません)ことを言い、その言葉をきっかけに私が彼に対して溜まっていたことが爆発し、険悪になる…というパターンです。
喧嘩をするたびに、「思ったことは、その場で、すぐに言ってくれ」と言われて、さりげなく伝えようとしてきました。彼も、最初は「構ってちゃんするな」というスタンスでしたが、段々と「どうしたの?」と聞いてくれるように努力をしてくれていました。
でも、また喧嘩をしてしまいました。内容は、「私が彼とのsexに、満足が出来ていない」というものです。行為の最中に、それとなく伝えるようにしましたが、無理でした。
今までも、散々このことについて喧嘩をしてきていました。 彼の男としてのプライドを傷つけるようで、彼が嫌な思いをすることをわかっていたから、「私の努力の問題もあるし、気の持ちようかな」と思ってきたのですが、自分の気持ちを優先してしまいました。 案の定、「どうすればいいかわからいし、もうしたくない」と言われていました。そして「後出しで言うのはやめてくれ」と。
こうなることはわかっていたのに、わがままばかりを言っている自分が、とても情けないです。
私は、ずっと一緒にいるためには、わかりあう努力が必要だと思っています。
でも、今回のようにナイーブな問題は、中々口に出すことは出来ません。 私の、伝える努力が足りないだけなのでしょうか。それとも、最初から私たちは相性が合っていない、という言葉で片付けられてしまう関係なのでしょうか。(相談者:かびごん/女性。都内のIT企業で働く25歳会社員です。)

紫原明子さんの回答

かびごんさん、こんにちは。
セックスってつくづく、二人の関係性が如実に現れますねえ。お手紙を拝見していると、定期的に訪れる大喧嘩も、そしてセックスの問題も、根底にはどうも同じ課題があるように感じました。

最初に、彼のことについて考えていきましょう。お手紙によると“彼は自分に自信があり、思ったことを真っ直ぐ伝えられる人”で、ときどき言い方がキツいときがあって、それが喧嘩の引き金になるんですね。さらに、彼とのセックスでかびごんさんは満足できず、最中にそれとなく伝えても変わらず、やむなく事後に満足できなかったと伝えると「後から言うな」「どうしたらいいか分からない」と怒る。

これらから察するに、彼はまず、かびごんさんが思っているほど自信満々じゃないのかもしれません。男性にとっての自信って、少なくともこれまでの社会では、友達から見下されないために、また異性にモテるために、必要不可欠なものと思われてきました。だから、本当は自信がなくて、不安いっぱいでも、すっかりハリボテの自信を築き上げてしまってるような人って結構いるんですよね。

そういう人は、他人、特に女性からのちょっとした指摘で自分の弱さが露呈するのを恐れているから、自分を守るために、自分の周囲に大なり小なり、ガードを張り巡らせます。まくしたてるように延々と喋ったり、キツい言葉で威圧したり、そんなふうにして、相手になるべく口を挟ませないようにするんです。

一般にコミュニケーションというのは、ボールを投げて、受け止めて、また投げて、そういうことを複数の人で繰り返すことで成立しています。が、相手ががっちりガードを固めていると、こちらの投げたボールは受け止められることなく弾き返されてしまいます。だから、ハリボテの自信でガードがっちりの人とは、なかなか思うようにコミュニケーションが成立しません。

で、ことセックスというのは会話以上に高度な技術を要するコミュニケーションで、言葉にならない相手の反応を、察して、受け止めて、アクションを起こすってことが必要です。したがって日頃、投げられたボールをハエたたきのように弾き飛ばしている人が、セックスの場でだけグッドパフォーマンスを発揮できるなんていうはずもなく、なんとかガードを解いてもらうか、ガードを突破するかしなければ、とてもじゃないけれど二人で快楽のビッグサンダーマウンテンに登ることはできません。

一方のかびごんさんですが、彼との関係を大事にしていらっしゃるのだなということがとてもよく伝わってきました。また、相手の気持ちを優先する心優しい方なのだということも、文面にひしひしと滲みでています。ただ、やはり少し腰が引けていらっしゃるなという印象を受けました。「自信がない」「努力が足りないのかも」と仰っているけれど、ひょっとするとかびごんさんに必要なのは、自信でも、これ以上の努力でもなく、あとほんの少しの「主体性」なのかもしれません。

なぜそう思ったかというと、彼がかびごんさんに仰った「構ってちゃんするな」という言葉です。よかったら少し考えてみてください。彼と喧嘩をする際、不満だけを伝えて、その具体的な改善については彼任せにしている、というようなことはないでしょうか。相手への不満って、相手の言動や人間性からくるものだから、たしかに、あなたが変わってくれなければどうにもならない、という場合もあるでしょう。でも、少なくともセックスにおいては、自分が満足できるかどうかというのは彼だけでなく、自分の活躍にもかかっているわけです。

たとえば、彼は執拗に乳首攻めをしたがるけど本当は全然まるっきり一切乳首で感じない、というようなことがあったとして、それを具体的に言わずに、しかし事後に「あなたのセックスでは満足できない」と言うのと、「そこもいいけどこっちもこう!」と、最中に自分の本当のツボにノリノリで誘導するのとでは、断然後者が親切ですよね。そんな風に、自分が気持のいいこと、自分がされたいことはできるだけたくさん自覚しておいて、彼が今ひとつポイントを外しているときはこっちこっちと導いてあげる。セックスってお互いの快楽のための共同作業なので、男性だけが頑張ればいいってものでなく、お互いに手を抜かず、相手と自分の快楽のために一生懸命、真剣に、血眼で、頑張らねばなりません。

そしてもっというと、セックスじゃなくても実は同じことだと思うんです。どんなに彼が頼もしい人に見えても、かびごんさんを幸せにしたり、満足させたりするのは、最終的にはかびごんさん自身です。いくら恋人でも、自分の幸せの責任を全部背負わせるっていうのはやっぱりちょっと図々しいお願いだと思うんで。

だから、彼に自分の要求を告げたあとに「わがままを言ってしまった」なんて反省する必要は全然ありません。かびごんさんは、かびごんさんの責任のもと、自分自身を幸せにしなければならないのだし、彼に全体重で寄りかからないようにするためでもあるのだから、ぜひ堂々と意見してください。

でもその際、「こういう言い方をされたのが嫌だった」と伝えるのでなく「自分はこういう言い方をされたい」「こういう風に接してほしい」と、具体的な要求を伝えるようにしてみてください。彼への指摘でなく、自分の快楽への要求として伝えるんです。こうすることで、彼がもし先にお話したようなガードの固い人だったとしても、彼を傷つけることなく、多少なりともガードの向こうに、言葉を届けることができるのではないかと思うんです。

相性が良い、悪いみたいな運命論って、総じて都合よく使うためだけのものです。万が一、泣く泣く別れることになったら、そのときは「はじめから相性が悪かったんだ」と運命のせいにしましょう。でもそれまでは、相性とかそんなものは一切無視して、彼と続けていきたい気持ちだけを大事にしていきましょう。
誰かと深い関係性を育んでいくことって、何よりも自分を成長させてくれるものです。かびごんさんと彼の幸せをお祈りしています。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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