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【山田ルイ53世のお悩み相談】小学6年生の甥が不登校になりました。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は不登校になってしまった小学生の甥に関するお悩みが寄せられました。

撮影・中島慶子

<お悩み>
小学6年生の甥が、昨年の9月から不登校になりました。中学校にもいかないので、制服は買わないと言っているそうです。
その子の母親(私の双子の妹)が、毎日家から出ず、パソコンで動画を見るだけの息子に、親としてどうしてやれば良いのかわからずつらいと悩んでいます。甥の将来も心配でなりません。
学校に行かせなくても良いのでしょうか。周りの大人の正しい対処を教えてください。
(みち/女性/40代の専業主婦です。今回の相談は双子の妹の小6の息子についてです。妹には、中3の息子もいます。)

山田ルイ53世さんの回答

この連載でも、散々書いてきたことなので、もうお腹一杯でしょうが、僕は中学2年の夏から6年間、引きこもり生活を送っていました。
何かしらの取材の際、その経験を喋ると、
「……でも、その期間があったから、今の山田さんがあるんですよね!」
と、美談めいた着地点へと誘導されることが多々あります。
部屋に閉じこもっている時代に、夢中になれる趣味や特技と出合ったことが、今の自分に繋がっているのだ……勿論、そういう方も沢山いるでしょうが、僕の場合は、無駄な時間だったし、失敗したと思っているので、困惑します。
問題は、当事者が無駄だったと総括していることにさえ、他人が何かしら意味を付与しようとすること。
「意味がないと意味がない」……おかしな物言いですが、もはや"意味の松葉杖"が無いと人生を歩むことも出来ないといった気味の悪い風潮が少なからずある。
どちらが怪我人か分かりません。
そんなものが無くとも、人間は生きていけるし、生きて良いのです。

さて、僕としては、
「学校に行かせなくても良い」
と軽々に言いたくはありません。
ご相談では、不登校の理由に触れられていないので、例えば、"いじめ"が原因だということであれば、無理して学校に行くことはない。
子どもが守られない、害を被るような場所にわざわざ送り出す必要は全くない。
逃げるべきでしょう。
あるいは、専門家の助けが必要な、何かしらの不調ということもある。
そして、もう少し背中を押してやっていれば、口煩くしておけば……「過剰に腫物扱いした結果、本来治まるはずの炎症が、ずっと腫れたまんま」というケースも多少はあるかもしれません。

慎重な見極めは当然ですが、小学校6年生から引きこもり、"普通"というルートを外れるのは、現実問題として、非常にしんどい事態を招きます。
これは僕の経験上、確かなこと。
学校に行かないのは別に良い。
誰の身の上にも起こりえることで、珍しくもなんともないし、いざそうなっても、出来る限りのバックアップは約束する。
その上で、「人生が相当面倒臭いことになるよ」というレクチャーはしておくべきかと。
「全ての経験が糧になる!」、「人生何歳からでも再スタート出来る!」……勿論、そうであれば最高ですが、ポジティブ風味に味付けされたエールの連呼だけでは、その喉越しの良さに反して、役に立ないことも多いのです。
かと言って、力ずくというのもうまくない。
中学生の僕が、引きこもり生活に入った、その初日。
布団から出てこない息子に、父はドロップキックを浴びせ、
「はよ、学校行け―!」
と怒鳴り付けましたが、僕の方はと言えば、蹴られたことで、むしろ登校しない免罪符、正当性を手にしたような気分に浸っていました。
要するに、正しい対処など分かりません。
もし、「これが正解です!」などと近寄ってくる人間がいれば、むしろ警戒すべきだと思っています。
「こんなの見てないで、さっさと学校行きなさい!!」
と無下にパソコンを取り上げる。
"親として"しっかり取り乱し、小言を言う。
それくらいして良いし、それで十分ではないでしょうか。

引きこもりの子どもに上手く寄り添えないからといって、それが罪だ、親として何かが不足しているなどということはありません。
張本人だった僕が言うのもおかしな話ですが、あの頃の僕に上手く対処できる人間などいないなと思うからです。
最後に一つだけ。
僕が甥っ子さんの立場であれば、制服は一応買っておいて欲しい。
「やっぱり学校に行く!」
と、いつ気が変わるか分かりませんし、親が準備をしていない様子を見て、
「僕のこと、諦めたのかなー……」
と寂しい思いをするかもしれないので。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
⇒ 公式ブログ

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