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【紫原明子のお悩み相談】バツイチの彼が障害を持つ子を育てることになりました。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は結婚を考えているバツイチの彼との将来に悩む女性からの相談です。

<お悩み>
障害を持つ子供がいるバツイチの彼が、この先、子供の世話をする事になりました。彼は今、子供の事で頭が一杯のようです。私とは結婚を考え、同棲の約束をしていた所でした。
彼のこれからの考えに、私は入っておらず、どうしたいもなく先の展望は良くないと言われ、思わず別れを切り出してしまいました。でも彼が好きで諦めきれず、話し合いをしてもらう事になりました。
関係を修復出来るか分からないし、本当に勝手ですが、この先彼ほど好きな人が現れるとは思えずすがりたい気持ちと、関係は続けられても結婚や同棲は難しいと思うと終わりにすべきという考えの間で揺れています。気持ちを整理する方法を教えて頂けると助かります。よろしくお願いいたします。
(相談者:まい/女性/派遣で事務をしている40代で、未婚です。)

紫原明子さんの回答

まいさん、こんにちは。ご相談ありがとうございます。
結婚を考えていた彼との関係が新しい局面を迎えているんですね。難しいですねえ。

以前、障害のある子を持つ親御さんに取材させていただいたことがあるのですが、大切な我が子を学校に行かせたい、お友達と遊ばせたい、親が仕事をしたいというような、一見ごく当たり前のことが、子どもに障害があるというだけでままならない場合が少なくないんですよね。行政のサポートも地域によって異なるので、恵まれている地域もあればそうでない地域もある。いずれにせよ夫婦二人でケアをするのだって大変なのだから、ひとり親が仕事を持ちながらケアも担うというのは、さぞ大きな負担だろうと思います。

だからこそ本当は今、彼の方こそ、生活の困難を分かち合えるパートナーがいればと切実に願っているのではないでしょうか。

にも関わらず、今後のヴィジョンにまいさんを含めないというのは、大切な恋人であったまいさんを自分の人生に巻き込んではいけないという、彼の優しさなのだろうと私は感じました。

ちょっと私の話をさせてください。私は5年ほどまえに離婚をして、今のパートナーとは知り合って4年、付き合って2年半ほどです。私は未だにたまに、彼のことを、神様が私の前に落としてくれたプレゼントじゃないかと思うときがあるんですよ。なぜかというと、彼は私だけでなくて、私の子どもたちも、また私の友人や親戚も、全員、私と同じように大事にしてくれるからです。

うちの子ども達は今、思春期の難しい時期を迎えているので、折に触れていろいろと話し合いが必要なことがあります。ただ、あまりに長きに渡り話し合いを重ねていると、みんな疲弊してきます。そういうとき、絶妙なタイミングで、絶妙なさじ加減で彼が介入してくれるんです。おかげで、ひとり親の頃には絶対にできなかった“一回休み”ができるようになったし、子どもたちも、私には話せないことが彼に話せたりするので、停滞していた事態が展開しやすくなる。ひとえに、彼が私達家族の生活の中に、臆せず入ってきてくれたおかげなのです。

彼は、大切な人の大切なものを、自分も同じように大切にするのは当たり前のことだよ、と言います。彼のこういう考え方に感化され、今では私も、彼の大事なものを、極力彼と同じように大事にしようと思うようになりました。

念のために言っておくと、この話をさせてもらったのは、まいさんに、彼と結婚して、彼とともにお子さんのケアをするべきだ、と言いたいからではありません。そうではなく、まずはまいさんに、彼を好きだと思う気持ちがどういうものなのか、今一度考えてみていただきたいと思ったからなのです。

好きだな、と思うことの後ろ側には、たくさんの精神的なギブアンドテクがあると思います。彼といると、まいさんはどんな気持ちになりますか? 一人でいるより素晴らしい気持ちになるのだとしたらそれは、彼がまいさんにそのきっかけを与えてくれているんですね。では彼は、まいさんといるとき、どんな気持ちになっているでしょう。まいさんは彼に、何を与えてあげることができるでしょうか?

特に今は、まいさんが彼に与えてあげられるものの大きさを考えるときだと思います。
少なくとも彼はこれから、たくさんのサポートを必要とする状況に置かれます。お子さんのケアを続けていく上で支え合える人、仕事を続けていく上で、自分の事情に理解を示してくれる人、また人は機械ではないので、たまには気晴らしだって必要です。話を聞いてあげたり、笑わせたりしてくれる人だって必要です。

そもそも障害の有無に関わらず、バツイチというのはたとえそのとき独身であっても、子供がいる以上、基本的には親であることには変わりないのです。それはたとえ、彼が今のように子どもを育てることにならなかったとしても同じことです。一度子どもが生まれたら、それからずっと親です。逆に言うと、離婚したからといって、生まれてきた我が子の親であることをなんの躊躇もなく忘却できる人が魅力的だと思いますか? そんなことないですよね。だから、(子供がいる)バツイチの人と結婚するってことは、親である相手を受け入れることなしには成立しないと、私は思います。

たとえば、すぐにとは言わずタイミングを見て、彼と一緒に暮らして、お子さんのケアを手伝ってみるというのは難しそうでしょうか。彼の生活や、彼の大切なものを理解するためのお試し期間を持ってみるというのはどうでしょうか。

もちろん、決して簡単なことではないと思います。でも、「彼と一緒にいたい」と「結婚をしたい」を成立させるにはやはりそれしかないです。
そして、もしそれが難しいようであれば、やむを得ず「彼と一緒にいたい」と「結婚をしたい」の、どちらかの優先順位を下げる必要があります。もし「彼と一緒にいたい」を優先するのであれば、彼の家庭の外にいる恋人として、たまに食事をしたり、デートをしたりして、彼のハードな毎日の息抜き係を担ってあげるといいと思います。
そしてもし「結婚をしたい」を優先するのであれば、彼に心が残っているうちは次の相手も見つかりにくいので、なるべく早く、スッパリと別れるべきだと思います。気持ちを整理する方法ということですが、そこはやはり、彼の大切なものを、自分も無条件に一緒に守りたいと思えるほど彼を好きではなかったのだ、と気がつくことではないでしょうか。

いずれにしても、結婚する上では、相手に自分の人生を背負ってもらうばかりでなく、自分も相手の人生を背負う覚悟が必要です。そして綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、結局のところその覚悟というのは、背負うものの大きさ如何ではなく、その人が自分にとってどれだけかけがえのない存在か、ということで決まるものだと私は思います。

ですから繰り返しになりますがまずは、まいさんにとって彼がどれほど大切な人物かということをよく考えてみてください。彼の大切なものまで大切にしたいと思えるかどうか。自分が彼に、何をどれだけ与えることができるか。今後のことを決める手がかりはきっとそのあたりに隠れていると思います。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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