明治時代に女として生きる……。 樋口一葉作品をオムニバスで綴る名篇!『にごりえ』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
明治の天才作家、樋口一葉の代表作『にごりえ』『十三夜』『大つごもり』の3編をオムニバス形式で、1953年(昭和28年)に映画化。キネマ旬報第1位を獲得し、今井正監督の最高傑作の一つとも言われています。
第1話『十三夜』は、夫に耐えかね実家に戻ってきたおせき(丹阿弥谷津子)が、実父に説き伏せられて婚家へ戻されようという晩、幼馴染の青年(芥川比呂志)と思いがけず再会します。シンプルな物語ですが、脚色した水木洋子と井手俊郎の腕が冴え渡り、セリフがとにかく見事。女は亭主にかしずくべしとぬけぬけと諭す父親の冷酷な口ぶりから、明治時代に女として生きることがどれだけ人生ハードモードであるか、余すところなく伝わってきます。
第2話『大つごもり』は、資産家の家に女中奉公しているみねの物語。ヒロインを演じる久我美子のアイドル的な魅力がいじらしい小品ですが、こちらも、ア然とするほど性格が悪い奥様(長岡輝子)の憎々しい芝居が見もの。敵ながらあっぱれと拍手を送りたくなる最高のヒールぶりです。
そして第3話の表題作『にごりえ』は、小料理屋で酌婦をしているお力(淡島千景)が主人公。酌婦はお運びからキャバ嬢的な接客、はては売春に近いきわどいこともやる稼業で、お力は足を洗いたがっています。お力に一方的に入れあげる源七(宮口精二)とその女房(杉村春子ぉー!)との腐れ縁に辟易しつつ、よさそうな男(山村聰)との出会いもあるにはあるのですが……。
淡島千景は宝塚の娘役出身で、戦後の自由な女性像を体現してデビューした人。大きな目鼻立ちとカラリと気っ風のいい口調の、まさに女が憧れるカッコいい女。それだけに、言っちゃあなんだけど、源七なんぞに絡め取られていくラストが悲しくて悲しくてやりきれない。合意の情死かストーカー的な被害か。女性の性被害における問題を考えさせる、とてもいまっぽい物語なのでした。
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。3月に短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売。
『クロワッサン』992号より
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