猫の表情だけで楽しめる?『こちょねこ』│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
文字通り、画面に現れた「大の字に伸びた猫」をこちょこちょくすぐって楽しむアプリ。“くすぐり指数”はゲージに出て、MAXになると猫が「フニャ!」とシメの表情をしてくれる。この表情は可愛い・おちゃめ・変顔と、バリエーション豊か。
「えっ? たったそれだけ?」
「くすぐってるうちに猫が成長するとか変身するとか、ないの?」
はい。ありません。
「な~んだ」と言うなかれ。
仰向けで短い手足を全開し、くすぐったそうに左右に身をよじる猫の姿態の、何と愛らしいことでしょう。揺れる肉球と振れる尾っぽは、見る人の心をくすぐって止みません。
そう、これは全国の猫好きさんに特化したアプリなのです。
「犬は性格が可愛い。猫は仕草が可愛い」と言った知人がいるが、けだし名言である。犬は知能が高いので人間の気持ちを察することができるが、猫はバカだから雰囲気を察するのみ。その代り、様々な姿態を披露して和ませてくれる。
このアプリを開発した人は、猫の魅力を知り尽くしていると思う。
翻って、我家の三匹の猫。みんな私に懐いているが、新入りタマと先住ボニーの相性が悪い。とっ組み合いのバトルに発展することもある。
私はどちらも可愛いので、猫同士の仲が悪いのは悩ましい限りだ。
「ケンカしないで、仲良くして!」
犬も食わない猫のケンカの仲裁をしながら、妻と母の板挟みになって悩む男の人の気持ちが、ちょっぴり分るような気がした。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『おばちゃん介護道』(大和出版)
『クロワッサン』991号より
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