“同じ”ではないことを認め、“違い”そのものを、祝福する。『いろとりどりの親子』(文・小林エリカ)
文・小林エリカ
「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」というトルストイの言葉を私は長らく信じていたが、この映画はそれを覆し、登場する一組一組の家族が、そのひとりひとりが、「幸福な家庭こそそれぞれの形がある」ということを、身をもって示してくれる。
ゲイであるというアイデンティティーと、その事実に自分自身や家族が向き合おうとすることの困難や苦悩をきっかけに、さまざまな“違い”を抱える親子に取材を重ねることにした作家アンドリュー・ソロモン。その著書『FAR FROM THE TREE』が原作になっている(ちなみにタイトルは、「リンゴは木から遠いところへは落ちない(子は親に似るもの)」という諺から「木から遠いところ」の意味。翻訳は来年に読めるそう、楽しみ!)。
映画も本をなぞるようにアンドリュー自身の告白からはじまり、自閉症のジャック、ダウン症のジェイソン、低身長症のロイーニ、リア、ジョセフ、殺人犯として逮捕されたトレヴァー、その家族たちが登場する。
ジャックの自閉症を治療しようと、あらゆる治療法を試みた母エイミーと父ボブ。ダウン症のジェイソンに読み書きを教え、ダウン症でも学べることを立証するために奮闘した母のエミリー。けれど、自閉症やダウン症はじめ、同性愛だって“治す”ものではないし、両親と“同じ”にはならないし、“同じ”ではない。
私自身、“同じ”ばかりを求めようとして、自分と“違う”を哀れんだり、恐れたり、ときには無理に型に押し込めようとしたり、敵視することさえある。けれど、よくよく考えてみれば、実のところ、私たちだって、血が繋がった家族だろうがどれほど似ている親子だろうが、ひとりとして本質的には“同じ”なんてありえないのだ。
わが子は(わが親は)、自分とは“同じ”ではない。
私も、あなたも、“同じ”ではない。
それを知り、受け入れることは、なんて困難で、勇気のいることなんだろう。
映画では、その事実に直面した家族たちが、それを認め、互いに尊重してゆく過程が、丁寧に描かれてゆく。
けれど、“同じ”ではないことは、決して、不幸ではない。
“違い”そのものを、祝福する。
そのときそこに私が見たのは、まぎれもない幸福だった。どれも似ていない、それぞれの幸福だった。
『いろとりどりの親子』
監督:レイチェル・ドレッツィン 原作:アンドリュー・ソロモン『FAR FROM THE TREE:Parents,Children
and theSearch for Identity』 11月17日から東京・新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
longride.jp/irotoridori/
小林エリカ(こばやし・えりか)●作家、漫画家。11月下旬に訳書『アンネのこと、すべて』(アンネ・フランクハウス編/ポプラ社)を刊行予定。
『クロワッサン』985号より
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