『 運命の歌のジグソーパズル』著者、加藤登紀子さんインタビュー。「歌には無限の可能性があるんです。」
撮影・中島慶子
「歌手を53年続けてきて、これまで多くの歌を作ったり、すばらしい歌や人と出会ってきました。70年余り生きてきたので、いちど本というかたちでまとめてみようと思ったんです」
加藤登紀子さんの『運命の歌のジグソーパズル』は、自身の中国・ハルビンでの出生から第二次大戦後の引き揚げ、そして東大在学中のデビューや結婚、その後の現在に至るまでの国内外のさまざまなアーティストとの交流などを描いた自伝だ。「知床旅情」「百万本のバラ」、映画『紅の豚』で使われた「さくらんぼの実る頃」等のヒット曲の誕生秘話や、加藤さんが歌ってきた「愛の讃歌」「リリー・マルレーン」「鳳仙花」など歴史に残る歌を巡るエピソードなど、タイトルどおりに一曲の歌との出会いと加藤さんの人生がまるでジグソーパズルのピースを埋めるように重なっていく様子が記されている。
「私にとっては歌手は職業ではなくて、自分が生きるためのツールだったんだと思います。私を支えてくれた歌が持つ歴史的背景と、その歌を通じて体験してきたことを伝えたくなったんです」
本書では各章のタイトルが曲名になっているうえに、冒頭に歌詞が書かれている。その章を読み終えて、もう一度冒頭を見ると、加藤さんが歌詞に込めた思いや、外国曲のゆかりの地を訪れた際に見たものがどのように反映されているのかが、再度味わえる。
「歌手として思うことは、誰がどこで私の歌を聴いて、さらに何を感じたかは確かめきれないこと。歌はいったん旅立ったら、私と離れた旅をしていく。それが歌と歌い手の約束なんです。そのかわりに歌は自由ですし、人間のように立場や国境などに縛られたりしない。無限の可能性があるんです」
“まだ25年は生きて歌うつもりですから”と笑顔で話す加藤さん。今年のコンサートではベトナム戦争に反対する若者の間で広まった反戦歌、「花はどこへ行った」をテーマにツアーを行った。当時から50年を迎えるにあたり、加藤さんは昨年11月にこの歌の原型となったコサックの子守唄を知るためにロシアを訪れた。
「なにかが気になるとすぐ現場に行くんです(笑)。そうすると、たまたまの出会いからその歌の背景や過程が見えてくることが多いです。ジグソーパズルのピースが偶然つながってくるように、これからの人生も歌と共に進んでいく気がしますね」
朝日新聞出版 1,500円
『クロワッサン』976号より
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