笑う余裕を持てるか? 『写真で一言ボケて』│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
金持ちケンカせずと言う。その心は「イヤなことや面倒なことはお金で解決できるので、気持ちに余裕が生まれて寛大になれるから」だろう。
誰だって宝くじ十億円当たったら、人生のお悩みはほぼ解決する。
そう考えると、最近話題の“水かけ姫”一家は不可解至極だ。あれほどの富を所有しながら、どうして些細なことで激昂し、ヘビメタまがいのシャウトを連発するのだろう?
あの一家はそれほどまでにお金で解決できない問題を抱えているのだろうか? それともお金はあの一家の幸せに貢献しないのか? そんなら私がもらってあげるのに……。
とまあ、そんなわけでご紹介したいのが「写真で一言ボケて」。
読んで字の如く、ユーザーが投稿した写真にミスマッチなコメントが付いていて、見ると思わず「ウフフ」と笑いたくなるアプリ。「笑点」の大喜利みたいな感じですね。
投稿作品は毎日更新されて、殿堂入りした伝説のボケから新人の渾身ボケネタ、ちょっと笑えない失敗作まで、あれこれ楽しめる。
感動的なエピソードは“一服の清涼剤”と形容されるけど、笑いも同じくらい大切な清涼剤だ。クスッと笑う余裕があれば、心に落ち着きが生まれる。今の自分の姿と周囲の状況が見えてくる。突っ走る前に立ち止まって考えることができる。
取り返しのつかないことをしでかす人は、ほとんど全員、クスッと笑う余裕を失っているはずだ。
水かけ姫も、水をかける前にこのアプリを見ればよかったのに。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最新刊『婚活食堂』(PHP研究所)が発売中。
『クロワッサン』976号より
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