くらし

『母・娘・祖母が共存するために』著者、信田さよ子さんインタビュー「“毒母”と批判するだけでは出口はない。」

のぶた・さよこ●1946年、岐阜県生まれ。臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。著書に『共依存・からめとる愛 苦しいけれど、離れられない』など。2017年のNHKドラマ『お母さん、娘をやめていいですか?』では臨床心理考証を担当。

撮影・岩本慶三

『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』。2008年、臨床心理士の信田さよ子さんが書いた一冊の本が、タイトルの衝撃とともに母娘問題の狼煙を上げた。受験に就職、結婚と娘の人生を支配する母。娘に父親の悪口を聞かせ続ける母。娘に依存し、救いを求める母。刊行直後から、そんな母との関係に苦しむ女性たちの共感を呼び、“母娘本”ブームの先駆けに。それから10年、信田さんがこの問題の総集編としてまとめたのが本書だ。

「あの本が“幕開け”だったという自負はあります。その後の展開については、漫画による当事者本の刊行などサブカル的な広がりを促進したことは、あらゆる世代に浸透したという意味ではよかった。けれど、毒母という言葉が一人歩きして、お定まりの母親バッシングに繋がることは本意ではありませんでした。母親の悪口を言って気が済めばいい、縁を切ってしまえばいいという短絡的な怒りの発露には先がないと思うんです」

そこで本書では、母親の個人的、心理的問題に終始することを避け、戦後の社会的背景やアダルトチルドレンブームなど歴史的系譜から母娘問題をひもとくことを試みた。

「『毒母育ちの自分も毒母にならないか心配』という相談が後を絶ちませんが、なぜ母親はこうなってしまったのか、その本質を知ることが連鎖を防ぐはずです」

象徴として取り上げたのは、団塊世代の母とその娘の組み合わせ。

「私自身、広義の団塊世代にあたるので、彼女たちを理解できる一方で『何してるのよ』という腹立たしさも感じました。これまで多く論じられてきた団塊世代の男性たち。その裏側にいた女性たちは、高度経済成長末期、仕事一筋で頑張る夫に代わって私生活の問題を全面的に引き受けた。『自分も仕事をしたかったのに』という挫折感や夫婦生活への不全感が、娘に執着した一つの要因でしょう」

感情に振り回されず、冷静に母親を分析することで生まれるある種の共感や理解。そこには、問題解決への新たな視点や光明をもたらしてくれる予感がある。

さらに本書では、祖母や孫の登場による母娘問題の世代的広がりや、母“息子”問題にも射程を広げ、また、母親の陰で無関心を貫く父親への提言も忘れない。

「父親が、母親を娘から切り離すように働きかけることはとても有効な手段です。定年退職などを機に、もう一度家族と向き合おうとする父親が増えているように感じますが、ぜひ頑張ってほしい」

母、娘、祖母の立場の女性はもちろん、男性にも薦めたい一冊。

朝日新聞出版 1,400円

『クロワッサン』971号より

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