そこで本書では、母親の個人的、心理的問題に終始することを避け、戦後の社会的背景やアダルトチルドレンブームなど歴史的系譜から母娘問題をひもとくことを試みた。
「『毒母育ちの自分も毒母にならないか心配』という相談が後を絶ちませんが、なぜ母親はこうなってしまったのか、その本質を知ることが連鎖を防ぐはずです」
象徴として取り上げたのは、団塊世代の母とその娘の組み合わせ。
「私自身、広義の団塊世代にあたるので、彼女たちを理解できる一方で『何してるのよ』という腹立たしさも感じました。これまで多く論じられてきた団塊世代の男性たち。その裏側にいた女性たちは、高度経済成長末期、仕事一筋で頑張る夫に代わって私生活の問題を全面的に引き受けた。『自分も仕事をしたかったのに』という挫折感や夫婦生活への不全感が、娘に執着した一つの要因でしょう」
感情に振り回されず、冷静に母親を分析することで生まれるある種の共感や理解。そこには、問題解決への新たな視点や光明をもたらしてくれる予感がある。
さらに本書では、祖母や孫の登場による母娘問題の世代的広がりや、母“息子”問題にも射程を広げ、また、母親の陰で無関心を貫く父親への提言も忘れない。