イイノナホさんのチャレンジ精神、独創性とハンドメイドの温もりはおやつにも。
撮影・青木和義 文・一澤ひらり
家がレストランだったことが幸い。 少女時代のおやつ体験に恵まれて。
おやつも食育であることを、イイノさんが学んだのは幼少期。
「子どものころ、母が牛乳と卵黄をシャカシャカと混ぜてミルクセーキを作ってくれたり、クリームチーズババロアとか、フレンチトーストとか、家業がレストランだったのでいろいろ作ってくれました。サンドイッチを作るときに切り落とすパンの耳を揚げて砂糖をまぶしたのも、大好きでした」
なかでも忘れられないおやつの記憶は、初めてのクレープ。
「母に連れられてフェアモントホテルだったようですが、コック帽をかぶったシェフが目の前でクレープを焼いてくれたんです。まさに夢心地でした」
子どもの心に帰る。おやつにはそんな魔法の力がある。
冬のたのしみ。ガラス工房ならではのとっておきのおやつ。
イイノさんの仕事場は自宅の敷地内に設けたガラス工房。学校に通う娘3人を朝送り出した後は、スタッフとアトリエにこもって夕方まで作品の制作に没頭する。
「朝はまずガラスの溶解炉の温度を上げて10時ごろから作業にかかり、5時まで仕事して後片づけと掃除をすると6時過ぎになるという毎日です」
繊細で優美なイメージのガラス工芸だが、高熱で溶かしたガラスを加工する工程はけっこうな肉体労働。まして一点もののガラス作品を作っていくには集中と緊張が求められる。
「そんなストレスから束の間解放され、心身をリフレッシュする貴重なひとときがおやつの時間なんです」
秋が深まって冬へと寒さが増していくこれからの季節、ガラス工房ならではのとっておきのおやつがあるという。
「溶解炉は1260℃にもなるので、余熱を利用して焼き芋を作るんです。さつま芋をアルミホイルに包んで溶解炉の上に2時間ほど置いておくだけで、見事な焼き芋ができあがるんですよ」
爽やかな秋の日の午後には、庭にテーブルとイスを持ち出して、スタッフたちとしばしおやつを囲んでおしゃべりを楽しむことも。今日の話題の中心はもちろん焼き芋だ。
「このさつま芋、クリーミーですね。自然な甘みが身体にやさしくて滋養もたっぷり」(スタッフ・駒形有紀さん)
「石川県の五郎島金時っていうさつま芋で加賀伝統野菜なんですって。初めて食べるけど、ホクホク感がたまらないよね」(イイノさん)
「夏は工房が60℃近くになって水分補給しないと身体がもたないから、スムージーとか、冷たいドリンクが欠かせなかったけれど、これからはやっぱりこれ。焼き芋とか温かいものがしみてきますね」(スタッフ・樋口あかりさん)
「本当にそう。夏はとにかく水分でのどを潤すことが一番になるものね。でもそれはそれで、菜の花とパイナップルのスムージーとか、ベリーの酵素シロップのソーダ割りとか、旬の野菜や果物でどんな飲み物を作ろうかって毎日考えるのが楽しかった」(イイノさん)
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