口のなかで完成する味の芸術、人気パティシエの創作の源とは?
撮影・清水朝子
端正なボンボンショコラを一粒、口に入れると、封じ込められた素材の味や香りが生き生きと広がり、いつまでも余韻が続く。日本人ショコラティエが作る、芸術品のようなショコラが今、世界を魅了している。
兵庫・三田に店を構える『パティシエ エス コヤマ』の小山進さんは、2011年、毎年パリで行われる世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に初出展。以来、フランスで最も権威のあるショコラ愛好会「C.C.C.(セーセーセー)」の格付けで6年連続最高位を獲得している。
「もともと世界に挑戦するという気負いはなく、日本人として備えている美意識やものづくりの丁寧さ、独自の食文化などを発表しに行ってみようという気持ちでした。けれど、フランスで修業したわけでもない僕の、子どもの頃から日本で培ってきた味覚が評価されたことには、大きな意味があったと思います」
小山さんのショコラの特徴は、なんといっても独特の素材使い。こがし醤油や米こうじ味噌、桜の樹の燻製など意外性のある和の食材を大胆に仕込み、固定観念を覆してきた。
「創作のきっかけはいつも日常の中にあります。普段の生活で見つけたおもしろい食材の組み合わせや気になる色合いなどから着想を得る。そして、僕の持つ120のクーベルチュール(様々な産地のカカオから作るショコラの原料)すべてを一から食べ直して、そのアイディアを実現するにはどれと合わせるといいのか、一粒に込めた要素が口の中で一体になった時にどんな味になるのか、想像してから試作を始めるんです」
斬新な素材使いも、奇をてらわない洗練されたおいしさに着地させるのは、ブレない味覚があってこそ。
「僕の味覚の原点は、京都で過ごした幼少期、母が丁寧に出汁を取って作ってくれた手料理にあります。今でも洋食やフレンチ、和食などいろいろな料理を食べて『うまい!』と感じた時に、それがなぜおいしいのかを考える。なるほど、ここに酸味があって、その奥には甘みがあって、と〝おいしさのデザインの成り立ち〟を探ることで、常に味覚の勉強をし、お菓子作りに生かしています」
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