『土偶のリアル』譽田亜紀子さん|本を読んで、会いたくなって。
ジャガイモ畑から国宝が出てきたんです。
撮影・岩本慶三
表紙に使われているのは国宝「縄文のビーナス」が長野県茅野市で出土した際の写真だ。土偶や縄文時代の魅力を伝える “土偶女子” として活動中の譽田亜紀子さんの新刊『土偶のリアル』は縄文の昔から現代に蘇った土偶の知られざるエピソードを丹念に描く。
「発掘現場の多くはその後は造成されて跡形もなくなります。考古学者は記録は残すのですが、それらが一般の方の目に触れることはあまりありません。これまで土偶の見た目のかわいさや面白さを伝えてきましたが、発見当時の物語を紡いでみたくなったんです」
ほぼ完成品として見つかった縄文のビーナスは非常に珍しい例である。実際多くの土偶は足や腰だけが見つかるが、その周辺を学芸員が丹念に掘り起こして場合によっては修復を施す。あるいは現代人のように縄文人も土偶をアスファルトで修理をしていたこと、さらに家庭菜園からジャガイモを掘り起こしている時に鍬が土偶の頭と遭遇、そこから国宝の中空土偶が発見されたことなど、紹介される物語はどれも思わず唸ることばかりだ。
「縄文時代はおよそ1万5000年前から2400年前まで続いたのですが、『自分の足もとを掘ったら出てくるかも』と思うと、そんな時代性を超えて楽しめますよね(笑)」
土偶のモチーフの多くは女性。時期や土地によって姿形は異なるが、くびれたウエストや、突起した胸、張り出した腰つきなど共通する要素も多い。
「縄文のビーナスを見た女性が『これ妊婦さんや。お腹がふくらんでるもんな、うちらと変わらんね』と言っていたんです。縄文時代は文字がないので、ひとつの土偶を巡ってその人なりの見方や考えをもっていいと思うんです。縄文のビーナスも当時から女性だけが持つ子孫を産むという能力を男性たちが崇めて、祈りの対象にしていたんだなどと想像をふくらませてほしいです」
17編の物語とともにカラー図版で紹介される土偶は圧倒されるような造形美を誇る。「日本にはピカソが何人いるんだ?」とベルギーで土偶展を開催した際に地元の人が驚嘆したエピソードも最終章で記される。まさに縄文アートは今に通じる魅力をもっている。
「発掘された土偶はさまざまですし、流行もあります。土偶を知ることを考古学などと思わずに、写真とともに楽しんでくれるのがいちばんうれしいですね」
山川出版社 1,500円