【俳優・高橋一生さんに聞いた】出会う前に夫婦になった不器用な男女の心の邂逅──映画『ラプソディ・ラプソディ』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・秋山貴紀(A lnc.) ヘア&メイク・田中真維(マービィ) 文・兵藤育子
怒りという感情は、喜怒哀楽のなかで最もエネルギッシュに相手と繋がろうとする、心の表れなのかもしれない。『ラプソディ・ラプソディ』で高橋一生さんが演じた、“絶対に怒らない男”夏野幹夫を見ていると、そんなふうに感じてしまう。
「幹夫は外界に影響を与えたくないとか、静かに生きていきたいと思って、怒り方がわからなくなってしまっている人。怒りという形じゃなくても、どこかで感情を表に出さないと抑圧されてしまうので、体、大丈夫かな?と心配になります(笑)」
物語は、横浜のレストランでランチをする幹夫と叔父の、のんびりとした会話から幕を開ける。やがて幹夫は、パスポート更新のために訪れた区役所で住民票を見て、独身の自分がすでに結婚しているという衝撃の事実を知る。そして勝手に籍を入れたらしい〈夏野繁子〉探しが始まり、ふたりの出会いは思わぬ方向へ動いていく。飄々として、怒りのみならず感情をどこかに置き去りにしてしまったような幹夫の佇まいは、「共演者の方々とお芝居をしていくうちに、出来上がった気がする」と高橋さんは振り返る。
「人との精神的な関わりを避けるような生き方は、20代ならまだわからないでもない。けれど40代の幹夫がそれを続けていられるのは、彼を取り巻く人たちが優しかったからだと思うんです。利重剛監督演じる大介叔父さんとのシーンが、撮影序盤に多かったのも大きくて、周りの人によって作られている幹夫が少しずつ見えてきました」
一方、いつの間にか妻となっていた繁子は、優しさや気遣いとは無縁のエキセントリックな女性。幹夫はある意味、被害者であるにもかかわらず、奔放かつ衝動的な繁子に振り回され、頑なに閉ざしていた心を無理やりこじ開けられそうになる。
「呉城久美さんが、繁子として存在してくれている強度がとても信頼できて、僕も幹夫でいられることができました。たとえば幹夫にしがみつくシーンでも、遠慮なく全力でやってくださる。当たり前のようで意外と抜け落ちてしまう感覚だったりするので、そういう芝居のあり方は大事だと思い直したし、繁子のように本当に引っ張っていただきました」
傷つくことを恐れながら、それでも誰かと繋がらずにはいられない人間の本質を、寓話めいた心温まるシチュエーションで描いた本作。
「よかれと思ってとか、こうしてあげたいという気持ちは相手の上に立つ危うさがあり、空回りしたりすれ違ってしまうことも。それでも包括すると、世界は優しいんだろうなと感じられる作品になったと思います」
『ラプソディ・ラプソディ』
名バイプレイヤーとして知られる利重剛が13年ぶりにメガホンを取った作品。地元・横浜を舞台に、不器用な大人たちがつまずきながら前に進む様を温かな眼差しで描く。
出演:高橋一生、呉城久美、利重剛、池脇千鶴
5月1日(金)より東京・テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
『クロワッサン』1163号より
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