広東旬菜 一僖の干し鮑の極上ソース丸煮/名曲喫茶 柳月堂のいちごとブルーベリーのタルト──京都の食を愛する「菊乃井」店主・村田吉弘さん、小説家・いしいしんじさんの、絶対食べたいこのひと皿
撮影・東谷幸一 構成&文・齋藤優子
「菊乃井」店主
ミシュラン3ツ星和食料亭『菊乃井』三代目主人。和食の普及に尽力。気さくな人柄でも知られる。
割烹のように使える店が好き
京都を、否、日本を代表する和食の料理人である。懐石料理店に行こうものなら、“村田さんが来た”と緊張が走るのがわかるから、勢い、気のおけない店に足が向く。中華でも洋食でも「カウンターで、割烹みたいにわがまま言いながら使える店が、京都らしいのと違いますか」。『広東旬菜 一僖』やハンバーグが好物の『洋食おがた』もそんな一軒。
以前は気になる店があれば、スクーターを駆って、東へ西へ。そうやって見つけた『おかきた』には、かれこれ30年以上通う。さすがにもうスクーターで、とはいかないが、フットワークの軽さは健在。「そうそう、噂を聞いて行った居酒屋『恒屋伝助』はなかなかよかったよ」と。
干し鮑の極上ソース丸煮 | 広東旬菜 一僖(祇園)
戻す技術が素晴らしい干し鮑料理
「街の中華みたいな顔して、高級店でもなかなか食べられない料理を出してくる」のが、通う理由。真骨頂が「干し鮑を戻す技術が素晴らしい」と絶賛する極上ソース煮だ。香港出身の師匠の元、主にホテルで広東料理の腕を磨いてきた下村一太さんが、戻して、炊いて、蒸して、とほぼ10日がかりで仕上げる鮑は、食感が見事。一方で、手軽な価格のエビワンタンも人気なのが、この店の懐の深さ。食材を活かした淡い味つけも京都らしい。
天とじ丼 | 京うどん 生蕎麦 おかきた(岡崎)
だしを含んだふわふわ卵が絶品
「京うどんはだしが命。そのだしが旨い。寒い時はかけつけ一杯、お猪口でもらうほど」。つゆには、天然の利尻昆布と数種の節を使用。1940年の創業時から継がれる手法で引いて、味をつける。お薦めは、そこに卵を落としてとじ、揚げたての海老天とのせた天とじ丼だ。「卵がえらいふわふわで、とじ方を教えろって聞いたぐらい」。ご飯は有機米を使用。うどんは、つゆの味を邪魔しない細麺で、新鮮な小麦粉を仕入れ、毎日店内で打っている。
小説家
作家デビュー30周年記念作品『チェロ湖』を昨秋刊行。同名小説のアニメ『トリツカレ男』も上映中。
創意工夫こそ、京都らしさ
大学時代を過ごした後、東京、神奈川、長野と移り、17年前に再び京都で暮らし始めた。「土地が狭く、地のものといえば京野菜ぐらい。食材に恵まれないからこそ、料理の技術が発達し、おいしい店が多い。だから、京都らしいと思うのは、各地のいい食材が集まっていて、それを創意工夫して出してくれる店」。その筆頭が40年以上通う『おおきに屋』だ。
蓄音機愛好家ゆえ、音を浴びるのもまた、店に行く目的のひとつ。
おでん盛り合わせ | 創作料理 おおきに屋(茶山)
京都のいいとこ、全部詰め
「料理、飲み物、人とのつながり、時間の流れ方。京都のいいところが全部味わえるので、国内外問わず、誰かをお連れする時は、ここと決めています」。店主の望月正樹さんに“こうじゃなきゃ”というルールはない。中華風も韓国風もあり。旅先で旨い郷土料理に出合えば、独自に工夫を凝らして一品にする。もろみで食べるカツオのたたきはそのひとつ。飲み物も稀少な日本酒からベルギービールまで揃い、大阪から足を運ぶ芸能人も多い。
いちごとブルーベリーのタルト | 名曲喫茶 柳月堂(出町柳)
“どこでもない”空気がいい
京都大学OBで、クラシック音楽の愛好家だった初代が、1954年に創業。オーディオマニアの2代目が、スピーカーやアンプに手をかけ、音を進化させた。喫茶室とは別に、リスニングルームがあり、ここでかかるレコードの音が喫茶室にも流れる。「京都でも、どこでもない感じ。よそとは空気の格が違う。だから、コーヒーもタルトも特別おいしい」。コーヒーは、創業から変わらない『小川珈琲』の豆を使い、汲み上げた地下水で淹れている。
買って帰りたい──川端二条『加藤順漬物店』
「散歩の途中、店構えに惹かれて訪れて以来17~18年、手土産はいつもここのお漬物」。店の奥で漬け、ここだけで売る。春のお薦めは、蕾がしっかり閉じた一番摘みの菜の花だけを使った〈摘みたて ちりめん菜の花漬け〉90g 810円。
『クロワッサン』1161号より
広告