考察『豊臣兄弟!』7話 伝説の“一夜城”へと駆ける藤吉郎(池松壮亮)!そして小一郎(仲野太賀)&直(白石聖)が迎える試練の刻。
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
大出世伝説の幕開け
伝説の幕開けとなる第7話だ。
豊臣秀吉出世物語の一つとして有名な墨俣(すのまた)一夜城。
『武功夜話』『絵本太閤記』など江戸時代の書物に記されるものの、当時の史料には木下藤吉郎秀吉が墨俣に短期間で城や砦を築いたという記録はない。
だが、藤吉郎秀吉(池松壮亮)と小一郎秀長(仲野太賀)、豊臣兄弟の大出世伝説には、墨俣一夜城での活躍が欠かせないのだ。
織田信長(小栗旬)は美濃攻めのため墨俣(現在の岐阜県大垣市墨俣)に砦を築くと宣言する。藤吉郎は自分にやらせてくれと名乗り出るが、その任を受けるのは柴田勝家(山口馬木也)となる。
悔しがる藤吉郎を小一郎が笑って宥める場面。
「それは運がよかったの。これまで皆が墨俣に築こうとして、ことごとくしくじったらしい。焦ることはない」
この兄弟のやりとりに、大河ドラマ『秀吉』(1996年)を思い出す。
藤吉郎(竹中直人)から墨俣に城を築く作戦を聞いた小一郎(髙嶋政伸)が言うのだ。
「先にどなたかにさせた上で、上手くいかぬ時に兄者が出ればよい」
「しかし、先に誰かが成してしまえば」反論する藤吉郎に、小一郎は
「他の人にできることを兄者がやっても仕方がない」と微笑んだ。
どちらも功を急ぐ兄を、弟が冷静に諌めている。
小さな場面にも、かつての名作大河『秀吉』への目配せがある。
そう思うと、なお楽しい。
怒る寧々に期待大!
永禄8年(1565年)。藤吉郎と寧々(浜辺美波)は祝言を挙げた。
藤吉郎29歳、寧々17歳。
ふたりの結婚した年には諸説あるが、この永禄8年に藤吉郎は侍大将になった。
侍大将は数百から千の兵を率い、評定へも列する立場だ。俸禄は100貫文分の所領、足軽大将の頃の倍。
収入と武士としての地位、どちらも揃った。寧々を妻として迎えるには十分だ。
寧々の父・浅野長勝(宮川一朗太)は信長の父の代から織田家に仕える、信長直属の御弓衆だ。寧々との結婚は、織田家臣団の中での藤吉郎の立場を固めるのに影響したと考えられる。
藤吉郎と寧々は祝言の宴前なのに、早々に揉めている。
「今日のお寧々はお市様(宮﨑あおい)と比べても遜色ない美しさじゃと申したのじゃ」
「普段はお市様のほうが美しいということじゃないの!」
兄弟の姉・とも(宮澤エマ)は藤吉郎のことを「さんざん女遊びしてきた色ボケザル」と言ったが、褒める言葉チョイスのドヘタクソぶり。藤吉郎は、女好きだけど女心はわからないというやつか。人たらしなのに。
「何があっても、わしはお前のことが一番じゃ。信じてちょ」
「わしはお前だけじゃ」ではないところがポイントだなと思い観ていた。数多の女がいてもお前が一番じゃと持ち上げられて、この先も寧々が笑っていられるかどうか。
ただ本作の寧々は、今までの北政所(寧々、おね)像とは違う。
浮気騒動が起こったら
1.泣く
2.耐える
3.怒る
3.一択な気がする。泣いて終わりなわけがない、いいぞいいぞ。歴史は変えられないが、人物像は自由度が高い。藤吉郎が浮気したらバッキバキに怒って喧嘩してほしい。
婚礼の宴前に揉めたのは新郎新婦だけではない。
小一郎の想い人、直(白石聖)も「私は中村に帰る」「あんたと一緒にはおれん」と言い出したのだ。驚き慌てる小一郎だが、そりゃそうだろうとは思う。
小一郎が直と駆け落ちしたのは永禄2年(1559年)。あれから6年経っている。
いま小一郎は26歳。直が何歳かはわからないが、幼馴染なので同じくらいだろう。
武家の女性の婚姻年齢は、その多くが10代であった時代だ。放置期間が長すぎる。
兄弟の妹・あさひ(倉沢杏菜)は「次は兄さまの番だね」と直との結婚を示唆したが、小一郎本人は直にそう伝えていたかどうか……この様子では言っていない。
小一郎「他に好きな男でもできたんか」
なんだ? 兄弟そろって賢いくせに、女のこととなるとボンクラか?
ずっと傍にいるのが当たり前と思っていた存在が突然遠ざかる。
浮足立つ小一郎に降りかかる、墨俣築城任務。
信長の(当社比)の優しさ
墨俣に砦を築こうとした柴田勝家だったが、ボコボコにやられて戻ってきた。
墨俣は木曽三川河畔の湿地である。
美濃を治める斎藤龍興(濱田龍臣)の稲葉山城(現在の岐阜城)にほど近く、美濃攻めの拠点にすれば有利だが、周りに遮るものが何もない。斎藤方から丸見えだ。
さしもの猛将・勝家も満身創痍で撤退するしかなかった。
もう一度出陣させてくれと乞う勝家に信長、
「もういい!負け犬は目障りじゃ」
「許しがあるまで蟄居(ちっきょ)しておれ」
本作の信長は実は情が深い男だとこれまで描かれているので、叱責の形を取りながらも、傷が癒えるまで勝家を休ませる意図が透けて見える。
物を投げつけはするが、蹴り飛ばしていた頃に比べれば穏やかだ。
あくまでも織田家中における(当社比)というやつだが。
やれる者はおるかという信長の問いに元気よく「このサルめにお任せくださりませ!」と
手を挙げた藤吉郎、頼みの綱はもちろん弟・小一郎の知恵である。
妙策の鍵となるのは?
小一郎の案は、先年織田家が入手した鵜沼城・犬山城の間を流れる木曽川の上流で材木を切り出し、ある程度組んでおくというもの。それを川の流れに乗せ、墨俣まで運んで一気に砦の形に組み上げる。木曽三川はこの時代、木曽川・揖斐川・長良川が合流・分流し複雑に入り組んでいた。
この作戦を実行するには、美濃川並衆──尾張と美濃の国境の川筋を仕切る地侍集団の協力が必要だ。
藤吉郎はさっそく美濃川並衆の頭目・蜂須賀正勝(高橋努)に会いに行く。
小一郎も従った。心を直のもとに残したまま──。
藤吉郎&小一郎が木曽川川並衆拠点を訪れる場面。
蜂須賀正勝と前野長康(渋谷謙人)が斬り合いとなり、ライダーキックならぬ藤吉郎キックで割って入る藤吉郎。ここであっけにとられる蜂須賀正勝の表情に大笑いしてしまう。
なぜか長康に続いて川に叩き込まれる甚助(前原瑞樹)、それを見る蜂須賀正勝の顔。
「なにコイツら? なにこの状況?」
理解が追いつかない様子にますます笑う。
蜂須賀をこちらのペースに乗せた藤吉郎が交渉を始めるものの、小一郎の上の空な様子はすぐ蜂須賀に見抜かれる。
つっこまれても上手く切り返せない、小一郎らしからぬ大失態。
協力をすげなく断られて、蜂須賀屋敷を退いたのちに小一郎を殴りつけた藤吉郎、
「お前は足手まといじゃ。小牧に帰れ」
ああ、これは信長が蟄居を命じて柴田勝家に休養を取らせたのと同じだ。
藤吉郎はあの評定の場にいて、信長の意図をきっちり汲んでいたらしい。
待つ者の苦しみ
小牧で小一郎を迎えたのは、熱病に冒され生死の境を彷徨う直の姿だった。
なにかできることはないかと動揺する小一郎に
「ないっ!」
一喝する寧々。
これまでの寧々は大人げなく、強気なだけの少女だったが、ここで一瞬、将来豊臣一族を支えてゆく北政所の姿が見えるのだ。
男が戦に出ている間は女はなにもできず、不安と心細さと戦いながら、ただ信じて待つだけ。自分が置かれている状況と同じだと小一郎は悟り、直の回復を仏に祈る。
待ち続ける辛さと、失う恐ろしさ。
それを知った小一郎は、目覚めた直にようやく「ここにいてくれ。お前はわしの帰る場所なんじゃ」と言えた。
よかったね、直……長生きしてね。
この賢いけどバカな男、小一郎の傍にいてほしい。
小一郎は策で兄を支える。
だが帰る場所がなければ、策もまた揺らぐのだ。
少年漫画のように熱い!
蜂須賀正勝と前野長康の間には、義兄弟の絆があった。
ふたりの夢は城持ち。だが所領のない川並衆では周辺の戦に参戦しても軽く扱われ、負け戦続きで疫病神よばわり。囮として使い捨てられ、多くの仲間を失った。
もう誰の下にもつかぬと決めた蜂須賀と、活路を求めて織田家に仕える前野長康。
藤吉郎は蜂須賀に墨俣砦築城の具体策を手紙で説き、困難な仕事でも「われらならできる!」という、川並衆筆頭の矜持を刺激する。
その上で訴えた。
「おぬしは疫病神ではない。勝ちをもたらす軍神じゃ! ともにこの世を見返してやろう」
駆けつけた小一郎もさっぱり状況がわからないままに、それでも兄を疑わない。
「兄者が言うならそうなんじゃ」と語り、蜂須賀を「兄ィ」と慕った前野長康を思い起こさせる。
蜂須賀正勝は川並衆を率いて、前野長康がいる屋敷を囲んだ美濃三人衆・安藤守就(もりなり/田中哲司)の手勢を蹴散らした。
高らかに勝鬨をあげる蜂須賀、長康に「またいっしょにやるか」と呼びかけ手を組む。
藤吉郎&小一郎にも
「褒美は3年後に城持ちじゃ!」
「この蜂須賀正勝と川並衆、おぬしらに力を貸す!」
この男がいれば百人力、いや千人力。熱いシーンである。
なお、蜂須賀正勝が城持ちになるのは天正8年(1580年)。これより15年後だ。
がんばれ負けるな、蜂須賀正勝。
昨年の大河『べらぼう』に登場した、阿波蜂須賀家の礎となる男。
新たな仲間を得た兄弟と、川並衆義兄弟の誓い。
くじけず進め。いずれこの世を見返してやろう!
次回予告。「小一郎と夫婦になります」。あれっ直、父上に報告してる。一瞬映ったの、坂井喜左衛門(大倉孝二)だよね? 木下兄弟、立派な甲冑になってる! 墨俣一夜城、簡単には完成しない。が、小一郎の策が光る。その策に感銘を受ける竹中半兵衛。軍師半兵衛、菅田将暉登場!
第8話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石 聖、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年.